11（T.F過去編4話） ページ11
足がもつれそうになりながらも走ること数分。
目的地に到着したが、まず無事にたどり着けたことに安堵してその場で崩れ落ちてしまった。
それくらいには不安定になっているということなんだと理解するまでに時間はかからなかった。
肩で息をしながらゆっくりと立ち上がる。
力を抜けばまた崩れ落ちてしまう気がしたから、何とかバランスを保とうとする。
Aの家のインターホンを鳴らすその指も震えながらだった。
ドアを開けてもらえるかすら分からない状態。
この待ち時間は1時間くらいここで待ってるような錯覚を引き起こす。
15秒ほど経ったときにガチャリと音を立てて、ゆっくりとドアが開けられた。
当然、開けたのはAではなく翔太。
辛そうな顔をしていて、それを見せないように俯いている。
辰「しょーた…」
翔「…入るなら入って」
こちらへ視線を移すことなく、そして変わらず冷たさを秘めた物言いだったが、今はもう何も反論することができない。
玄関へと足を踏み入れる。
何度か入ったことのあるAの家。
それなのになんで緊張しているのだろうか。
辰「Aは…？」
前を歩く翔太の背中に声をかける。
俺の言葉に反応して立ち止まる。
翔「寝てる」
辰「切ったんだよね…？病院は…？」
翔「行ってない、幸いにも深くなかったから俺が止血した」
Aに会いたい。
もうそれしか今は言葉を出せなかった。
辰「会いたい…」
翔「…」
部屋へと歩き始めるだけで何も返してはくれなかったが、ある部屋の前で再び立ち止まった翔太。
そこはAの部屋だった。
ドアノブに手をかける翔太。
翔「本当は会わせたくない。だけど、このままAとふっかが離れるのはもっと嫌。何より俺が諦めた意味が無くなる」
独り言のように呟く。
正直、俺に対してぶつけたい気持ちはまだまだあるはずだ、こんなことになったのだから。
だけど、それでもそう言ってくれる翔太に俺はずっと甘えすぎていたんだ。
ゆっくりとドアノブを回し中へと入る。
ベッドで眠るAの左手首にはしっかりと包帯が巻かれている。
顔色も少し青白い。
俺の視界は涙でどんどん歪んでいく。
辰「A…」
Aが生きてることを実感できた瞬間、俺はその場でまた膝から崩れ落ちてしまった。
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作者名：mimo | 作成日時：2023年2月11日 0時
