桜色桜風 (ページ12)

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6：名前① ページ12

『AAちゃん…。』

「へっ？」

『君の名前はAAちゃんだよ？』

彼女は戸惑ったような顔をしていた。
そりゃそうだよね(笑)
今までも、そして現在も自分の名前を思い出せてないんだから。
彼女は少しだけ考えているような素振りを見せたあとに、僕に質問をしてきた。

「あの、私は何者なんでしょうか…。」

『えっ…？』

「分からないんです…。お医者さんからは全生活史健忘って言われましたけど、なぜか長野さんと以前どこかでお会いしたことがあるような気がして…。」

僕はびっくりして、言葉が出なかった。
とりあえず、外での立ち話は寒いだろうと思って僕は家の中へと上がってもらった。
彼女は「ありがとうございます…」と控えめに答えて僕のあとをついてきた。
僕はソファに座ってもらうように促し、ココアをいれ始めた。
寒いときには温かい飲み物が一番だからね(笑)

僕はココアをいれながら彼女にこう聞いていた。

『僕と出会ったことがあるって思うのはどうして？』

「私…日記を書いていたんです。そこにたまたま同姓同名ってことかもしれませんけど、長野さんの名前があって…。」

『えっ…。』

「これなんです…。」

彼女はバッグの中から、白い手帳を取りだした。
そして、その書き込みがあったページを僕に見せてくれた。
そこにはこう書かれていた。

【長野博さんっていう笑顔がとても素敵な人に出会いました。満開に咲く桜の下で。】