不可視 ページ43
「サーシャ？」
「ん、いる」
【裏のセカイ】が崩壊した。後処理などすべきことは両手から溢れるほどあるのだが、ひとまず優先するのは身体を治すことだった。
俺の傷は少し血を摂取するだけでほぼ癒えたけれどラーシャはそうはいかなかった。両目の視力と左の聴力が戻るまで時間がかかるとのことだった。
「飲むか？」
目元を包帯で覆った状態でふらりと手を伸ばす。痛々しい姿に胸がぎゅうっと苦しくなった。レザーのソファがぎしりと鳴く。
両手をとって、自分の右腕に牙をたてた。ラーシャの口元まで持っていくと恐る恐る、猫のように舐める。
「早く治るといいな」
「いちばん治るのが遅くなるのは聴力だって」
「そっか」
しばらく、沈黙が落ちた。
数日前の夜、決戦の前。仮眠から目覚めた彼女が言いかけていたことは何だったのだろう。聞いてもいいのか。遠慮すべきなのか。血を啜っている華奢な背中を撫でていた。
「シャロンはどこにいるの」
「シャロン？あー、叶んとこ」
「擬態はさせてる、よね……？」
「ああ……」
ロンちゃんどこ行く？パンケーキ食べに行く？
かなかなが美味しいって思ったとこ！
楽しそうに話していた二人の姿が脳裏を過った。多分、きっと、うん。いいコンビだと思う。「ロンちゃん」「かなかな」の距離ガン詰めのあだ名呼びには流石にびっくりしたけど。
「なあラーシャ」
「なに」
「お前さ、起きたあのとき、何か言いかけてなかったっけ」
「……いやあ？」
「……言いかけて、なかったっけ？」
「……聞こえてないない」
「いや聞こえてるからあ！」
俺の腕から顔を離したラーシャは逃げるように身を引いていく。見えないが視線が逸らされている気がして、追いかけて腕を捕まえて引き寄せた。腕の中に勢いよく飛び込んできた彼女をしっかり抱きとめて、もういちど訊ねる。
「べつに」
「んだよ」
「サーシャの隣は安心する、よねって……それだけ、だし……」
「……」
「聞いてきたくせに照れないでよ！」
「ｳｯｽ……」
顔が熱い。きっと見せられない顔をしている。
腕の中でもぞもぞと動くラーシャの後頭部を押さえた。「サーシャ！」なんて抗議の声が飛んでくるけど知らない。それどころじゃない。
「私今目見えないし」
「あ、いやっ……ほら、心の目とか」
「……っふ、ふふ、何それ」
諦めたように動かなくなったラーシャは肩を震わせて笑っていた。くすくすという鈴のようなその声に無意識のうちに口元がゆるんだ。
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houkouonchi13(プロフ) - 新生活頑張って下さい！！更新も無理なさらないでくださいね…！！！！楽しみにしてます！ (2021年4月14日 1時) (
レス) id: 2b5068bd37 (このIDを非表示/違反報告)
konayuki2222222(プロフ) - 続編おめでとうございます！やっぱり最高です！ (2021年3月10日 21時) (レス) id: f927dca413 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みかん | 作成日時：2021年3月9日 9時
