俺は俺のやり方で�� ページ31
.
「泣いてんの？」
「泣いてない」
「ふは、」
ぐすっ、と鼻を啜る音が聞こえて、顔を覗き込むと「嫌だ」というように俺から顔を背ける。そんな仕草が可愛くて笑いながら、頭をガシガシ撫でた。
「A、」
そんなとき、俺ではない彼女を呼ぶ声がして、顔をあげると、リハ室の入り口に自分と彼女の荷物を持った、はしもっちゃんが立っていた。きっと、彼女を迎えにきたんだろう。座って寄り添う俺とAの姿を見て、悲しそうな顔をした。そんな顔すんなよ、ちゃんとAは、はしもっちゃんに返すからさ。
涼「なに、してんの？」
瑞「泣いてるから、慰めてたの」
「泣いてない」
瑞「はいはい」
涼「え、ほんとに泣いてんの？」
「やだ、りょうやめて」
涼「やだ、って…、」
髪を撫でて、彼女の顔を覗き込むはしもっちゃんの手を退けるA。退けられた掌をヒラヒラさせて、困ったように眉を下げる彼。あーあ、ほんっとこの二人は。
はしもっちゃんの、彼女への想いはただただ真っ直ぐだ。小さい頃から、ずっと彼女が一番で。
高校生になり、元々可愛かったAだけれど、どんどん綺麗になっていく彼女に近付く男は少なくなかった。勿論、作間や優斗もその一人であって。ま、俺もだけど。
思ったことがすぐに顔に出てしまう彼は、その焦りからか独占欲が強くなり、ファンの間でも彼がAのことを恋愛対象として好きだ、と噂されるようになった。
それのせいで、はしもっちゃんがあからさまにAとメディアで絡まなくなり、不仲説が流れたこともあった。
それでも彼が彼女のことを想わない日はなかったけれど、彼女が傷ついていたことは、彼は知らないんだろうな。
あの日のことは、俺と彼女だけの秘密だから。
瑞「はしもっちゃん、」
涼「ん？」
瑞「ごめんだけど、今日はAのこと貸してくんないかな」
涼「え？」
瑞「明日ちゃんと連れてくるから」
涼「…わかった、」
こういうとき、彼女が、傍にいて欲しいのはきっと俺じゃない。それはわかってる。
涼「これAの荷物。明日は９時だって。Aのことよろしく」
瑞「ん」
涼「A、また明日ね」
「ん」
涼「今日はちゃんと寝てね」
ほら、はしもっちゃんにもバレてんじゃねえか。
彼は、優しく笑ってAの頭を優しく撫でた。
俺とは違う、優しい撫で方。
表情もすごく優しくて、掌も優しくて、声も優しくて。
俺とは正反対。
本当に、正反対だ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 259人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：mi ayu | 作成日時：2022年8月20日 18時
