俺は俺のやり方で�� ページ29
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俺がまだ、彼女と仲良くなかった頃の話だ。
女だから贔屓されていて、女だから前に出れて、女だからマイクを持たせてもらえる。そう思っていた。周りの男たちと同じ考えを持っていた。
でも、それは違うということに気付けたのは、彼の行動がきっかけだった。
彼というのは、勿論はしもっちゃんだ。入ってすぐに同じグループに配属されて、やんちゃで社交的な彼とはなんの戸惑いもなく友達になれた。あの頃は、仲間やライバルというよりも、友達という感覚の方が近かった気がする。
はしもっちゃんは、いつもレッスンが終わったあとすぐに帰らずに、稽古場の入り口に座っていた。みんなに「一緒に帰ろう」と声を掛けられてもいつも笑顔で断っていた。なにしてるんだろう、と俺は「どうして、すぐに帰らないの？」とを声かけたことがあった。
すると、彼は「Aが一人で練習してるから終わるの待ってるんだ」と笑っていたのを覚えている。俺と一緒にいた子が「一緒にはやらないの？」と聞いた時に「うん、俺はもう疲れちゃったから」と笑っていた。
今ならわかる。それは、彼の嘘だ。
あの時はわからなかったけれど、今なら確信が持てる。
彼とずっと一緒に居たからこそ、あの言葉が、彼の「優しい嘘」だとわかる。彼は、彼女のためならいくらだって嘘をつく。
それは、時には悲しい嘘をも。
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それと同時に、
はしもっちゃんと同様に、長い時間を一緒に過ごしてきたのは彼女も一緒だ。彼女のことも、俺はあの頃よりも理解できる。
Aはきっと、はしもっちゃんがそのとき練習に付き合えば、もう踊れるはしもっちゃんを付き合わせることに申し訳なくなってしまうから、Aは気を遣って、自分が納得いってないのに練習をやめてしまうから。
だけど彼が、練習に付き合わないのに彼女を置いて帰らないのは適度なところでやめさせる為だろう。やり始めたら、彼女は倒れるまでやる気がするから。
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それぐらい彼女は、努力の人だ。
常に、完璧を追い続けてる。
今よりもっと。
さらに、上に。
俺や、はしもっちゃん、優斗、ガリさん、作間にはきっと彼女の気持ちはわからない。
なんでかって？
この世界で「女の子」が生き抜くためには、きっと、
俺らがわかるはずのない、
計り知れない重圧があって、
それに耐えるメンタルが必要なのだと。
目の前で、震える彼女がそれを物語っていた。
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作者名：mi ayu | 作成日時：2022年8月20日 18時
