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思春期少年少女
「おれさーあ」
「ひとめぼれした」
「Aのことすきだよ」
『なんで』
「んー、なんでだ『ちがう』…?」
『なんでそんなこというの』
「?」
『あずさは』
『あずさのこと好きなんじゃないの』
「………あー」
きむてひょんは頭をがしがし搔いてコーラをごくごく飲んだ。
「………俺ね、あいつのこと好きじゃない」
きむてひょんは言った。断れなかった。なんか可哀想で。あれ、あの、土砂降りの日に捨てられた子犬を見るのと同じ気持ち。だからつきあってる。好きじゃない。
『…ふうん』
今のふうんは精一杯憎しみを込めたふうん。
『………ふうん』
今のは、
『よかった、』
わたし、これで山田あずさの心に深く残れる気がするよ。ねえ、きむてひょん、わたしはじめてあなたに感謝したと思う。ありがとうきむてひょん。
「やっぱりすきなんだ」
『なんだっけ』
「うん?」
『きみのすきなアイツはぼくがすき』
「…」
『あずさはじょんぐくがすき
でもじょんぐくはわたしのことがすきなの』
「…つづき、」
『つづき…?』
「そう、その歌の」
『…』
「"君のこと思うと呼吸困難なの"」
『っは、』
おっかしー。
やけに大きく響く。わたしの少し低い声。
「ねえA」
『なあに』
「じみなやめなよ」
『…』
「俺にしなよ」
『随分と自分勝手だね』
「あずさはあげる」
『…………』
あー神様。なんで。なんであずさの彼氏はこの人なんですか。わたしじゃだめだったんですか。なんで。あずさのこと簡単にあげるって言えちゃうような人に、なんで。なんであずさを渡したんですか。
『山田あずさは』
「うん」
『山田あずさはずっときむてひょんの彼女』
「…」
『わたしと浮気しよっか』
「…あずさ振っちゃだめなの?」
『だめだよ許さない』
わたしこれでも山田あずさを心から愛してる。歪んでるとか歪んでないとか関係なく。だって第三者ほど要らないものはないでしょ。わたしたちの関係に。言わせたいやつには言わせとけばいい。…わたしたちの関係っていうか、わたしの片想いだけど。
「…じゃああずさは知らないんだ」
『…』
「浮気なんてしたくないけど」
「…でも俺Aと繋がりたい」
『あー、そういうこと』
「いや、それもあるけど」
「Aのことすきなんだ」
ただ、純粋に。
きむてひょんは四角い口で笑った。澄んだ水みたいに綺麗だった。
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作者名:ごめん。 | 作成日時:2019年5月25日 11時