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ーー
「貴子さん…?嫁いだはずじゃ。」
目の前にいる人は紛れもなく、この間教室を騒がせていた人物。
確か嫁いだ所はかなり遠かったはずなのに。
「ふふ、荷物を取りに来たのよ。」
「あぁ、そうなんですね。遠くから大変でしたでしょ?」
人の良い貴子さんは、皆から好かれていた。
きっと、結婚相手もそんな貴子さんのことを大事にしたいと思っていると私は思う。
「ええ、まぁ。ところで、お隣の方は?」
京治の方に話を持っていかないようにしていたけれど、やはり彼女は京治のことが気になっているようだった。
仕方なく、説明しようとしたけれど
口を開くのは貴子さんの方が早く、私の声はかき消された。
「まさか、この方がAさんのお相手ですか?」
「え?」
「Aさんの噂はあまり聞かなかったんですよ。だから、皆Aさんのお相手が気になっていたんですよ。」
ちらり、京治に目を向けると、京治は少しだけ困惑したように眉をひそめていた。
「…違いますよ。この人は私の幼馴染、今は散歩をしていただけよ。」
本当のこと。
すると、貴子さんは驚いたようでいきなり私の肩を掴んだ。
「Aさん!そんなことしては駄目ですよ!」
言っている意味が良く分からなかった。
理解できてない私を他所に、貴子さんは話し続ける。
「貴女にも、お相手くらいいるでしょう?その方に誤解されます!」
誤解されるもなにも、相手すら知らない。
「そうじゃなくても、周りから見たら貴方達は恋人同士に見えます。駄目ですよ、そんなことしては!」
何も言えなかった。
つまりは、結婚の妨げになるから京治と居るのは避けた方がいい、ということだろうか。
「Aさん…?」
何も言わない私を不思議がって、貴子さんは私の顔を覗き込んだ。
「そ…」
「そうですね。」
京治が初めて声を出した。
「確かに、これはお嬢さんにとって良くないことかもしれません。ご忠告ありがとうございます。…お嬢さん、帰りますか。」
と、京治は早口でまくし立てると、私の手を引いて騒がしい道を、草履を擦りながら通り抜けた。
やっぱり、私は何も言えない。
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作者名:晴 | 作成日時:2016年1月16日 22時