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店に回ってみると、開店前だというのに皆忙しなく品出しをしていた。
そこに1人、目立つ人。
周りより頭一つ飛び抜けているためだろう。
番頭の赤葦さんのとこの次男、赤葦京治。
私と同い歳ということで、小さな頃からよく一緒にいた。
彼は今、教師を目指しているのだそうだ。
そのための学費を少しでも稼ごうと、たまにこうして店で働いている。
「お嬢さん、お早うございます。」
突っ立っていた私に気がついた様で、京治は挨拶をしてくれた。
嬉しい、そう思う反面昔は名前で呼んでくれていたのになぁと思い出して、少し悲しくなる。
「お早う、京治。皆さんも朝早くから、ご苦労様です。」
京治を含め、従業員にも挨拶をする。
ちらほら返してくれる人も居たけれど、皆忙しいようで聞いている人は少なかった。
「もう、学校へ行く時間じゃあないですか？」
いきなり声をかけられて驚いた。
いつの間にか京治は、私の後ろへ回っていた。
「そうね、じゃあ行ってきます。京治も、お勉強頑張って。」
「ありがとうございます、お気を付けて。」
ひらりと返事の代わりに手を振ると、京治も少し笑って振り返してくれた。
駄目だ、恰好いい。
京治は笑うと、涙袋で目が潰れてうんと目が細くなる。
そんなところは可愛らしい。
京治の手は大きくて、指先が少しカサカサしている。男性らしい手。
こんなところは恰好良くて仕方がない。
馬車に乗り込むと、体が柔らかい椅子に沈んだ。
こんな想い消さなければならないのに。
こんな想いを持って嫁いだら、苦しくなるだけなのに。
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作者名：晴 | 作成日時：2016年1月16日 22時
