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ーー
赤葦side
ありがとう、俺はその言葉をどう受け取ったらいいのだろうか。
突き放された様にも取れるし、受け取られた様にも取れる。
抱きしめた腕は解いた方がいいのだろうか。
頭ではそう考えているが、動かなかった。
このあと一生、お嬢さんの体温を感じる機会はないかもしれない。そう考えると離すのが惜しかった。
「京治…？」
「はい。」
少し掠れた声を出したお嬢さん。
俺が抱きしめてから、顔を上げようとはしない。
「私は言えない。」
思わず腕の力を強めてしまった。
着物の上からでも、細いお嬢さんが壊れてしまいそうなくらい。それでもお嬢さんは、何も言わず続けた。
「京治の様には言えない。言ってしまったら、私はきっと嫁げなくなる。」
「嫁げなくなったらいいじゃないですか。」
俺が間髪入れずに言ったら、お嬢さんはようやく顔を上げて目を見開いた。
「本気で言っているの？」
「俺は本気です。逃げる覚悟でもなんでも。」
しばらくお嬢さんは放心していたが、ふと戻ってきて泣き出した。
「…無理。私には立場がある。守らなければいけない立場が…。」
お嬢さんが泣いてまで頑なになる理由も分かる。
言葉に出していないけど、本当の気持ちも伝わってくる。
「じゃあお嬢さん、こうしましょう。」
真っ赤に充血した目がこちらを向く。
「俺に１年だけ下さい。」
本当は全部欲しいけれど。
「貴方が嫁ぐまで、その間だけ俺と付き合って下さい。」
「そういう問題じゃないでしょう？」
お嬢さんは憤慨したように眉を吊り上げる。
「ええ、ですからお嬢さんは何も言わなくていいんです。」
「どういう事よ？」
「お嬢さんが言えない言葉はそのぶん、俺が言います。お嬢さんはただ、俺の言葉を受け取っているだけでいいんです。」
お嬢さんの額に俺の額を重ねると、細い肩が跳ねた。
初めてこういうことしたけど、案外顔が見えない。
「お嬢さん、好きです。ずっと前から。」
お嬢さんの体が固まるのを感じた。
ーー
続く (更新停止中)
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作者名：晴 | 作成日時：2016年1月16日 22時
