青の紫陽花【赤葦京治】 (ページ12)

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私の部屋の襖を開けてくれた京治は、何か言いたげに私の目を見た。

見つめ返した京治の目は、いつもと変わらず真っ黒。ただ、瞬きの頻度が多い。

「…どう、したの？」

沈黙に耐えられなかったのは私の方だった。
京治はまた少し黙って、ゆっくり口を開いた。

「今の内に、しっかりお嬢さんを見ておこうと思って。」

「…どういう意味？」

すると京治は、ふっと息を漏らして小さく笑った。そして、目を伏せて呟いた。あんまり小さくて聞き取れないかと思った。

「お嬢さんは居なくなってしまいますら…。」

こういう言葉を貰った時、どうしたら良いのだろうか。
想い人から貰った言葉にしては嬉しい。
でも、素直には喜べない。

喜べない壁がある。

「…やっぱり意味が分からないわ。」

私がその意味を知ってしまうには、遅すぎる。
意味を知ってしまえば堪えられないものがある。

「知りたいですか？」

首を傾げながら微笑む京治に毒されて、私は頷く。

知らなければ良かった。

迫る京治に後ずさりをした私が聞いた音は、静かに閉まる襖の音。

それと古い紙の匂い。本の匂いだ。

ーー