「さよなら」なんて言わないで【男主】 (ページ10)

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平凡な日(6) ページ10

※結構きつい暴力表現があります。苦手な方はｽﾔして下さい。

「あ～ッ！もうどこにおんねん…」

　先程遅刻した二人を置いてきてからもうかれこれ20分くらいはあいつを探してると思う。

たん、たんと宿舎の中を土足で走り回る俺の足音だけが響く。
今はここには訓練や任務でほぼ人がいないので、余計自分の足音が大きく聞こえる。

少しだけ名も知らない転生者の事を考えてみる。

　…転生者の身である彼は、この世界に知り合いや家族は居る筈も無く、本当に居場所はここしかない。
　だから、彼にとって唯一の居場所であるこの場所で何か危険な出来事に巻き込まれていなければ良いんやけど……

まあ、ウチに限ってそんな危険な出来事は起きるはずも無いだろう。

俺はそう自分の中で暗示し、平然を保った。

　でも、心の中の不安はなぜが取り払うことが出来なかった。

「……」

なんで俺はあんな見ず知らずのやつをこんなに必死になって探してるんや？

あの遅刻野郎共を探しに行ったのもあいつの勝手やし

「…どうせもう、見つけられんくて先に戻ってるやろ」

急にあいつを探す事をが面倒くさくなり、元来た道を戻ろうとした時だった。

ゴッ

宿舎の裏庭の方から、鈍い音がした。
それはまるで人の頭を大きく打ち付けた様な…音だった。

足を止め、黙ってその音に耳を傾けると、先程と同じ鈍い音ではないが、何かが強い力で殴られている様な音がした。それは何度も何度も繰り返し起こっていた。

「…」

俺は気づいたらその音の方へ何も考えずにただ走り出していた。

…声が、聞こえる。

「お前さー他の世界から来たとかふざけてんの？」

「どうせスパイなんだろ？」

嫌な予感は、的中してしまった。

俺の探していた人間はぐったりしていて、壁や地面に何度もに体を打ち付けられ、壁に少し赤いものが付着していた。

あれは全部転生者の目の前にいる二人の下等兵にやられたものだろうか。

「あれ？もう聞こえない感じ？やべー」

「いんじゃね？事故ってことにしとけば」

そこにいた下等兵達は笑いながら転生者の髪を片手で掴み、顔を覗き込む。

「あれ？よく見たら意外と整った顔してんじゃん。…うわー」

「もしかして上の人達、この顔に騙されたんじゃないか？」

「あー…そういう事かー…ならさ」

そこにいた二人の内の一人が、転生者の髪を掴んでいた手を離す。
それはどしゃっと音を立てて、崩れ落ちる。