「さよなら」なんて言わないで【男主】 (ページ5)

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平凡な日(1) ページ5

この高い場所にある部屋の窓から、街の景色を見ることが僕は好きだ。
なぜならここで空をぼーっと眺めている時に、自分はこの世界に生きているんだと実感するからだ。

初めてこの世界に来た時も、ずっと空を眺めていたっけ。

あの頃に比べると、僕のこの世界に対する考えは180度くらい変わった。

当時は来た瞬間牢屋にぶち込まれていたので、早くこんな世界おさらばしたいとずっと思っていた。
でも、今考えるとこの世界に来た経緯も、帰り方も、この世界についても何にも知らないのに、元の世界に帰れるわけないだろう。

その考えに達した時、僕は絶望した。

父さん、母さん…みんなにもう会えないのかと思うと、悲しみより先に虚無感が僕を覆った。
なんと言うか、実感があまりわかなかった。
自分のどこかでずっとこれは長い夢だと思っていたからだ。きっといつか覚めるって。

でも実際に夢が覚めるようなことは無く、執務室から出ようとした時に、ドアに頭をぶつけた際、痛みを感じる上に、涙も出てきたので、これは現実だと理解した。

それを見られて総統に大爆笑されたのも僕はハッキリ覚えてる。
総統と言えば、僕は彼に自分の名前を名乗った後に、この軍で僕を保護してくれるという提案をしてきた。

地面に寝っ転がっている人を牢屋にぶち込む人達なので少し不安だったが、この人達以外に僕は頼れる人がいなかった。
住むところもなければ、食べるものもない。
明日生きているかもわからないような状態だった。

「どうだ？」

彼はそう言い、手を差し出した。
彼の目には、僕がハッキリと映されていた。

本当にこの人達を信じてもいいのか？そんな考えも一瞬脳裏をよぎったが、僕の考えはもう最初から決まっていた。

「よろしく、おねがいします…！」

そして僕は、差し出された彼の手をとった。

…

『あ～あれからもう4年も経ったのか～』

そう呟きながら窓から半分、身を乗り出す。

暫く空を眺めていると、どこからかふわっと風が吹く。
それは僕の顔を優しく撫でる。

僕がこの世界に来た当時は、敵国と冷戦状態にあったらしく、僕が地面に寝そべっているのを見て、敵国と見間違えたりしたらしい。

一体僕のどこにスパイ要素があると言うんだ…
部屋の隅にある鏡を横目で覗く。

そこに映る僕は、少し大きめの軍服を着ていた。

『…よし、今日も頑張ろう！』

窓を閉め、僕は自室の出口へと向かった。