「さよなら」なんて言わないで【男主】 (ページ20)

今日:3 hit、昨日:7 hit、合計:25,343 hit

憂鬱な日(5) ページ20

Aと別れた後、そのまま喫煙室へ直行した。

別の世界があるなんて、今まで一度も考えたこともなかった。今のこの世界も、戦争が勃発していることを除けば普通にいい世界だと思う。
飯は美味いし、可愛い女の子はいるし。

…でも、

でも、Aの今まで暮らしてきた世界はどんなものなのだろう。別に、羨ましい訳じゃない。ただ、少しだけ気になるだけだ。

「…後で聞いてみるか」

そう残して僕はライターを鳴らした。

「あああ～だりぃ～」

そう言いながら綺麗に磨かれた机の上に突っ伏す。
その様子を見たトン氏は少し不満そうな顔をして、小さくため息をついた。

「そこ今拭いたとこなんですけど」

「いいやろ～また拭けば」

そう言いながら腕の中に顔を埋める。

「……はあ…毎回汚してるの大先生くらいだよ…なぁ、グルッぺン」

すると今まで呼び出しをしたくせにずっと他の仕事をしていたグルちゃんがよし、と呟いた。

「すまんな、大先生。呼び出しといて放置して。丁度今片付けたところだ」

そう言い、グルちゃんは歯を出して笑う。

「おー、で、なんすか僕に用事って」

頭を掻きながら机からむくりと起き上がり、グルちゃんを見る。
するとグルちゃんも僕を見たかと思うと、直ぐに近くの引き出しからなにか紙の束を取りだした。

「そうだな、とりあえずこの資料を見てくれ」

…

「…わかった、じゃあ明日にでもこいつらをその地域に派遣させておくよ。」

「助かる」

「……そういえば、ゾム一度も見かけへんな」

　ゾムのことは1日の中の何処かで一度は絶対に見かける筈である。例えば屋根の上だったり、空中だったり、ここの部屋だったり…
　だが今日はそんな奴を一度も見かけていないのだ。僕が少し顔を落としてグルちゃんを見つめると、彼はそんなことかと言わんばかりの顔で言った。

「アイツらの面倒をゾムに見てもらうことにした」

「え？あいつらって…」

「ああ、あの新人2人とそのーなんだ、転生者の合わせて3人の教育係だ。大先生にはまだ言ってなかったな」

「…は？」

　その話を聞いて僕は言葉を失った。
先程説明を受けた新人2人には教育係がついてもまあ普通だろう。でも、何故Aにも教育係がつくんだ？……しかも、よりによって……

「なんでゾムなんすか」

そんな僕の様子なんか全く眼中にないと言った様子でグルちゃんは

「ちょうど手が空いてたから」

と軽く答えた。