「さよなら」なんて言わないで【男主】 (ページ12)

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平凡な日(8) ページ12

「ペ神います？」

医務室では、戦場だと滅多に顔を合わせることの無い、しんぺい神と呼ばれる人が専属医者を務めている。
この人は大抵忙しく、いつもは他の人達に診てもらう事が多いが、今日は居る気配を感じる。良かった。

「いるけど…ってなんやその子！！」

久しぶりに会うペ神はあまり変わっていなかったが、俺の背中に担いでいる転生者を見て目を丸くした。
まあ多分、初めて見るだろうから何事かと思ってるんやろなあ。

「…コイツ、転生者らしくて……」

ペ神に説明しようとして、実際にこいつのことを転生者と呼んだところで、まだ名前を聞いていなかったことを思い出した。

…目を覚ましたら直ぐに名前をきこう。

俺の様子を見たペ神は何かを察したように小さく頷いた。

「…あ～とりあえずほら、こっちのベッド空いてるから運んでもらってもええ？」

「あ、ハイ」

「……後でじっくり調べたいなあ」

ペ神が何か言ったような気がしたが、俺はあえてそれは聞こえないふりをした。

転生者をベットまで運び、ギシッと音を立てて綺麗なシーツの上に転生者を寝かせる。少し衝撃を与えてしまったかと思い、ばっと転生者の顔を見たが、…まだ起きる気配はない。

「…こいつ、死んじゃいました？」

「いや、今見たところやと打ちどころがまだ良い方やから、…うん。大丈夫。」

ペ神のその言葉を聞いて、俺はつい息をついてしまった。

その後ペ神の完璧な処置のお陰で転生者の事を寝かせておくだけでいいという段階まで治療が進んだ。

「…あ、ごめん、俺ちょっと用事があるんやった。その子の事頼める？」

ペ神が唐突に席を立った。

「……」

俺はペ神の方を向かずに小さく頷いた。
それを見ると彼は「頼んだよ」とだけ残して医務室を後にした。

「……なあお前…ほんとに弱いんやな」

眠っている転生者と俺だけしかいない部屋で呟く。

「目ぇ離したらすぐ死んでまうやん」

そう続けながら、ふと転生者の方へ手を伸ばす。

「…ははっお前、ほんとにどこにも居場所ないんやなー…」

ゆっくりと伸ばした手は、軽く髪に触れる。

そしてその髪を暫く撫でる。

よく転生者の細い腕や足を見ると、先程殴られたであろう時に着いた血が、まだ少しだけ残っていた。
俺はそれを見て小さく呟いた。

「……お前のことは……俺が絶対に…」

眠っている転生者の顔はまだ幼く、戦場に不釣り合いなものだった。