「さよなら」なんて言わないで【男主】 (ページ2)

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数年前の話(2) ページ2

『うーん……参ったな…』

まさか目が覚めたら平和な街から牢屋にいた、なんてこと誰が想像できるだろうか。いや、想像されてたまるか！

早くこんな夢覚めてしまえ。

……て言っても覚めるわけないかー！
頭の中での独り言が増えていく。やっぱり寂しいんだよ、僕。

夢でなかったとしても、さっき居た街の方がこんな牢屋よりぜっんぜんましだ。

なんてったってここはとにかく寒い。大学で授業を受けていた時の服…少し大きめのパーカーのままこのよく分からない世界に来てしまったもんだから、もう寒くて寒くて仕方がない。

しかも両腕にはガッチリと大きな手枷が付けられている。それが冷たい。もうほんとに冷たい。誰か暖かい手枷と交換してくれませんかね？

『……ひっ…ぶあっくしょい！！』

とうとう寒すぎて変なくしゃみが出てしまった。

まあどうせ、誰も聞いていないし、変なくしゃみをしたって構わないだろう。
ええいこうなったらとことんくしゃみしてやろうじゃないの！

『ックし！！』

『あーッション！！』

『あー……
「…いやあんたさっきからうっさいねん！」

『ックしょ！！……え？』

誰もいないと思っていた牢屋に、知らない声が響く。

自分の顔が熱くなっていくのを感じる。
遠慮なしにあんな変なくしゃみを連発していたのを誰かに聞かれていたことが、何よりも恥ずかしかった。

『……うわ、恥っず…』

先程聞こえた知らない声の持ち主であろう足音が、コツ、コツと少しずつこちらに近づいてくる。

足音が近づくにつれ、僕の心臓の音も大きくなっていく。

コツ、

コツ、

…コツ

足音は僕の入っている牢屋の前で止まる。

ばくばくと心臓の音がうるさい。

夢の中のはずなのに、なんでこんなに緊張するんだろう。

周りは暗いと言えど、所々小さなランプが牢屋内を照らしてくれていたため、目の前に立っている人の形がよく見えた。
その人は軍服を身に纏っていた。

「あんた……ほんとにあっちのスパイなんか？」

僕のことを見下ろしながら彼はそう言った。
彼とは初対面ではあるが、その言葉は、彼自身の本心に聞こえた。

『…え…スパイ？』

僕は聞きなれない言葉だったので、つい聞き返してしまった。

「…あんた、なんで自分が捕まったか分かる？」

彼は僕の背丈に合わせ、少しだけ屈み、僕の目をしっかりと見つめる。
その目には、嘘はつけない…そんな気がした。

『わからないです』