それでも明日は

4話 前進、後退、 ＊赤 ページ37

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衣装を替え、水分を取っていると
何だかスタッフが慌ただしく動き始めた。
何かのトラブルかと傍にいる照と、目配せ。



「ラウールッッ…！」



翔太の悲鳴のような声に、気が付けば動き出していた。



「翔太っ」

「なに、どしたの？」



翔太の向こう側には、ぐったりと倒れるラウール。
慌てて駆け寄ると、顔は真っ青で、手足は冷たくて、
具合が悪いなんて考えなくてもわかった。

舞台の上では事情を知らない康二と佐久間が
そろそろ次の曲紹介に入ろうとしている。



「翔太、落ち着いて。次、出番だよ」

「でもっ、」

「ラウールが悲しむから、ね？
ラウールが困った時に助けを求めるくらい、
翔太の歌が好きなんだから…ちゃんと歌ってきて」



プロでしょ、と先輩の言葉を借りて付け足すと、
ひとつ息を吐いて、分かったと舞台へ向かう。
目黒と阿部は上手の方から、
康二と佐久間も上手にはけていくから、
きっと動揺を誘うことはないだろうけど、
このまま黙ってるなんてことも出来ない。



「ラウッ…！？」

「ふっか！」

「岩本くんっ、次、どうする！？」



曲のイントロが始まる。
曲が約5分、MCで伸ばして約5分。
10分後には次が始まる。

救護の人はファンの子で具合が悪くなった子がいて
そっちにいってしまったとスタッフが言う。



「ラウ、ラウッ…わかる？聞こえるかな？」



ふっかがぺちぺちと頬を叩くと、
僅かながらも身動ぎし、小さな声を上げる。



「目眩かな？」

「いやわかんない、とりあえず動かす。
ごめん、ラウール、ちょっと動かすよ」



スタッフが椅子を並べて、その上にバスタオルを
何枚も敷きつめて簡易ベッドを作ってくれた。
その上に寝かせると、目を開け、
少しだけ意識をこちらに向けてくれる。



「ラウ、分かる？」

「ふ、か、さん、」

「耳？耳なんか変？」



苦しそうに耳を抑えて唸るものだから、
もう1度照が抱き上げてアリーナ地下の楽屋に行く。
救急車は呼ぼうかとの問いに、照とふっかは
ちょっと様子見るから待ってと迷わず言い放った。

水とタオルを抱えて、ふっかと照のあとを追い、
スタッフに次のMCを3人で伸ばせなかったら、
もう1度康二と佐久間に出てもらうよう伝える。



「ラウ、なんか変な音する？
手、ゆるめて、そんな強く握っちゃ痛いから、ね？」

「やだ、このおと、こわいっ、」

「怖いね、俺も照も舘さんもそばにいるよ、大丈夫」



ラウールの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

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