重ならない世界の先で

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「じゃあ、僕達はこれで」

「連絡先、頂いてもいいですか？お礼...」

「礼？ンなもんいらないです、な？」

「ん？何？レイ？あ、お礼？
いいです！大丈夫！また会えますし！
僕もここなんです、病院。
また会った時、今度は笑ってる姿が見れると！」



でも、と言いかけたら、コウジからめちゃくちゃ連絡が
来てるって2人は急ぎ足で帰っていってしまった。
そもそもどっちが連絡しないのが悪いんだって。
聞こえないことなんてないみたいに、言い合って。

あとから、担当医の先生から聞いた。
彼等は時々病院で小さなライブを開いてくれる。
みんなの優しさと、心遣いで騒ぎになることも
邪魔をされることもなく、ただ日々何かと闘う人達の
心にそっと寄り添ってくれるのだと。

1曲出来上がるのに半年、1年近くかかるようになった。
それでも諦められない自分達は、いつかそんな風に
誰かに寄り添うことが出来るだろうか。
そう漏らした俺に先生はこういった。




「この仕事をしていると、毎日生と死は傍にあります。
慣れることなんて…ないなって。
自分の力が及ばない虚しさを、痛感するばかりです。

…でも、その度に、人が生きていることには、
意味があるんだと私は思うんです。
例え、その生涯がどれ程短いものだったとしても。
長さなんて関係ありません。
生を受けた、その瞬間から、人は生きていて、
その全てに意味があるのだと。

在り来りな言葉ですが、1人では生きていけません。
私も、君も…みんな、支えられたり、
誰かを支えて生きているんではないでしょうか。


…どんな空でも、雨降る空も、晴れると。
＿＿ 美しいのだと教えてくれた子がいました。
沢山の奇跡が重なり、愛され、生きているのだと。

きっと…想いは、人を強くする、優しくする。
いいじゃありませんか、諦めなくて。
ゆっくりの歩みだって、構わないじゃないですか。

私も、君も、この子も、彼等も。
…共に、明日も生きていきましょうね」




先生は治す術のない病気を診ている。
例えばラウールのように、記憶が上手く保持出来ない
病気だったり、薬も治療法もない病気を。

先生が言う、どんな空でも、雨降る空も、
晴れるんだって教えてくれた子は、どんな子だろう。
その子や、その周りの人達もまた、俺達と同じように
為す術のない現実にもがいたんだろうか。


人が、生きていることには意味がある。
確かに、そうかと眠るラウールの頭を撫でながら
改めて思った。

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