水底のキミ【奈良坂透】 (ページ13)

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悪夢ページ13

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「そういうあんたはどうなの」

「なにが？」

「‥‥遠征。そろそろ研修始まるでしょ」

「あ〜。まぁぼちぼち、かな。またトリガー見てくんない？」

「点検はこないだやんなかった？」

「痛覚とか諸々調整したいんだよ。研修期間は変えてんの、知ってるだろ」

そういえばそうだったね、とAは流し目でこちらを見た。「？」と視線を返せば、何か言いたげに目を泳がせる。

なんだよ、と柔らかく続きを促した。
基本彼女は言いたいことがあれば遠慮なく言うが、遠征に絡むこととなると途端に口を噤むのだ。
本来自分が知っていていいことではなく、口を挟むべきではないと自覚しているから。

けれどその「言いたいこと」がただの文句ではないことを、おれは知っている。

「───なに、言っていーよ」

ぱたん、と台本を閉じてAは身体を起こした。
おれと向かい合うように座って、恐る恐るといったふうに口を開いた。

「‥‥いつも、夢、見るんだ」

「夢？」

Aの唇が小さく震えた。
黙って続きを待っていると、泣きそうな、何かをひどく恐れるような顔で、言う。

「───公平、が、‥‥帰ってこなかった、夢」

「っ、‥‥」

「‥‥遠征が近づくと、いつも見るんだよね。
あんたが帰って来なくて、空っぽの棺で、誰のためのかもわからない葬式して。母さんも父さんもずっと泣いてて。その日の夜に‥‥太刀川さんが、遺書持ってきて。封を切れなくて‥‥いつもそこで、目が覚める」

Aがおれを心配しているのは知っていた。けれど、ここまで深刻に思い詰めているとは気づきもしなかった。

遠征の朝は、フラグになりそうだ、と特別な挨拶もなしに、いつも通りに言葉を交わしておれを送り出して。

帰還の夜は、帰宅すれば一番に出て来てほっとしたような顔をするくせに、送り出すときと同じようにいつもの言葉で出迎える。

Aが遠慮して何も言わないことに甘えすぎていたのかもしれない。おれがAを心配するのと同様に、彼女もおれを誰よりも気にかけていたのに。