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――野営地。
焚火の前で座るAは、ぼんやりと焔を眺めていた。ときおり弾ける音、その中に混じる、隊士達の囁く声が絶えず聞こえている。
短く息を吐き出して前髪を乱す。ここ最近、目の奥がたまに痛むことがあった。食べ物もろくに喉を通らず、そして悪夢すら見ていた。夜だというのに、眠くすらならないのだ。
「――A、」
ふっと顔を上げる。焚火を隔てた向かい側に桂が立っていた。
やあ、と声を掛けた。桂は微笑んですぐそこに腰を掛ける。すっかり疲弊しきった彼の顔を見て、嗚呼、と、自身の胸に走る痛みに目を逸らす。またやってしまった、と。
芳しくない戦況。焦るばかりの毎日。いつになったら、
しかし、日に日に浪費していく軍備と、人手。かつて見た憧憬のように、周囲に乱雑に散らばる死。
――次は、誰が?
顔を上げた先にいる、かの塾の生徒。
――――どうか、銀時たちを守ってあげてくださいね
銀時と高杉の背中が、瞼の裏を過る。かつて幕人に歯向かった時の三人ではないことは分かっている。けれど、ああけれども。
失うのが、怖ろしい。
「――A」
「――…………、」
「お前は、無理しないでくれ」
桂が落ち着いた声色でそう告げた。
それを聞いたAは、頬を緩める。「何を言ってるの、小太郎」
私が。私のせいだ。あの時無力だったから。何の力も無く、連れて行かれる松陽の背中を見送らなければ。なんとか、できていれば。
この手を、伸ばすことができていれば。
「――……後悔、ばかりだよ。私は馬鹿で、弱くて、先生一人救う事も出来ないんだ。だから、せめて私は、私だけでも……――君たちだけは、守りたいんだ。だって、だって先生との約束なんだよ。あの人と交わした、大切な約束だよ。無理をしなくちゃ、いけないんだ」
弱弱しいAを見て、桂は自責の念に駆られた。
薄々、松陽と彼女はなんらかの約束をしていることに気づいていたが、それが、自分たちを守ってくれ、というものとは知らなかった。そしてその約束が、今も彼女を苦しめている。
人は、脆い。
それはAも例に漏れない。ただ彼女は、それを隠すのが人よりも上手いだけ。
――――やるせないな、
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時