一抹の ページ13
一抹の
×××
「……A?」
松陽の隣で静かに外を眺めるAが、徐に立ち上がった。
縁側から飛び降り、下駄を履くとゆっくりと歩きだしどんよりと雲の陰る空を見上げた。
微かに雨の匂いがする。
松陽の方へ振り返ったAの瞳に、松陽はは、とした。
「――A……君」
「先生、雨、降るよ」
一見、何の変哲もない彼女の瞳に違和感を覚える。それに気付くのはおそらく――松陽だけ。
立ち上がった松陽は曇天を仰ぐと、早足でAに歩み寄りその背中に手を添える。
「さあ、早く中に入ってしまいましょう? 濡れては風邪を引きます」
「――……うん、そうだね」
Aの視線の先は、塀の陰に隠れる何者かに向けられていた――。
×××
松陽は一人、部屋で座っていた。
もう時間かもしれない。そう思うのは、何度目だろうか。
きっと、早くAに”このこと”を伝えなければならない。天道衆を抜けてから、朧と死に別れてから、――銀時とAという孤児に出会ってから今日まで思い悩んでいたこと。
この身体の内に潜む
今か今かと頭を出そうと首をもたげている。
私が彼らを護れるまでの時間は、一体あとどれ程なのだろう。
太ももの上に置いた拳を強く握る。
この優しく流れる時間をいつまでも守っていたい。
大切な生徒たちと共に静かな時を過ごしていたい。
それが叶うのは、あと――。
「先生」
「あ、ああ。A。すみません、急に呼び出したりして」
「……ううん、別にいいよ。どうしたの」
松陽の前に座ったAは小首を傾げる。
じっと見つめる松陽の瞳は、どこか虚ろだった。
「約束をしてほしいんです」
「約束」
「ええ。――どうか、銀時たちを守ってあげてくださいね」
「え? 急に、どうしたの、本当に」
どうか、理由は聞かないでください。
松陽はそう念押しした。
「……うん、分かった。じゃあ、約束」
「……ありがとう。A」
これが、やがて彼女を縛ることを知らず。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時