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――――呪いのようだ。
腕の中で固まったままの彼女を見ながら、
頭のどこかで他人事のようにそう思った。
傷つけていると分かっていながら、彼女を縛り付ける。
頭の中では分かっているのに、自身の言動がそれに伴わないのだ。
「……ごめんね」
思わず、謝罪の言葉が漏れる。
Aからの返事はなかったけれど、彼女はゆっくりと俺の背中に手を回してくれた。
俺の胸に顔を埋めていたので彼女の表情を伺い知ることはできなかったのだが。
「……A…………」
思わず彼女の名前を呼ぶ。彼女はひゅ、と短く息を吸い込んだ。
そして、そのまま腕の中で、彼女がぽつりと呟く様に言う。
「…………まあ、よく考えたら、さあ、」
その声音は、少し震えていた。
「私も小鳥遊がいないと進級も危ういし、一緒にいないと、だめになっちゃう、よね、」
「……え、」
「小鳥遊いないと、朝も起きれないし、」
そこまで言うと彼女は胸に埋めていた顔をあげて、にこりと笑う。
――――それは今まで見た中で一番下手くそな笑顔だった。
「……だから、私はこれからも、小鳥遊に甘えて生きていくので、
…………精々小鳥遊はこれからも私の介護に追われるといいよ」
「…………」
「……ずっと、傍にいてくれるんでしょ」
――――嗚呼、嗚呼。彼女はどこまで優しいのだろう。
俺を突き放すことだって選択肢の一つにあったはずなのに。
彼女は全て知らないふりをして、俺を受け入れることを選んでくれたのだ。
……本当は彼女は俺なんかいなくたって生きていける。
朝だって起きようと思えば起きれるし、
勉強だって出来ないわけじゃない。
それなのに。
「……うん。うん……。Aの傍に居させてくれるなら、俺何でもする……」
「――――はは、やっぱりちょっと重たいなあ」
笑いながら、彼女は再び俺の胸に顔を埋めた。
思わず彼女の背に手を回す。
「……ありがとう」
それは何に対しての”ありがとう”なのか。
俺を受け入れてくれたことに関してか。
それとも、知らないふりをしてくれたことか。
自分でもよく分からなかったけど。
『いいよ』と、
腕の中で全てを察した様に笑う幼馴染を、もう一度強く抱きしめる。
救われた――――と、頭のどこかで心からそう思った。
――――嗚呼、俺は今、彼女によって生かされている。
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もぐもぐいちご(プロフ) - realさん» 返信遅れてしまってすみません;;realさんコメントありがとうございます!イラストも見ていただけて本当に嬉しいです…!これからも不定期ではありますが更新していきますのでよろしくお願い致します…! (2023年4月24日 2時) (レス) @page39 id: 30f259b2ae (このIDを非表示/違反報告)
real(プロフ) - イラストの方から来ました!めっちゃきゅんきゅんしました(*´-`)作者さまのペースでの更新楽しみにしてます! (2023年4月10日 12時) (レス) @page3 id: 3d1cb866c0 (このIDを非表示/違反報告)
もぐもぐいちご(プロフ) - 朱まぐさん» 返信遅れてすみません…!男の子視点、ヒロインは好きな子なのでとにかくかわいく見えるように意識してたのでそこに言及して頂けるの本当にめちゃめちゃ嬉しいです…!コメントありがとうございます!これからも拙文ではありますが楽しんで頂けると幸いです! (2022年12月11日 12時) (レス) id: 30f259b2ae (このIDを非表示/違反報告)
朱まぐ(プロフ) - 初めまして、こんばんは。男の子全員素敵です!9ページ目では佐藤君目線になってヒロイン可愛いと思ってしまいました!笑読んでて癒されました☺︎素敵な作品ありがとうございます。無理せず作者様のペースで頑張ってください! (2022年12月5日 22時) (レス) id: 0c936a9b54 (このIDを非表示/違反報告)
もぐもぐいちご(プロフ) - かんずめさん» コメントありがとうございます!下でも似たようなことを書いたのですが己の生み出したキャラたちを好きと言って頂けるの、本当作者冥利に尽きます…!はちゃめちゃに嬉しいです、これからも拙い文ではありますがお付き合い頂けると幸いです…! (2022年11月16日 20時) (レス) @page22 id: 30f259b2ae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もぐもぐいちご | 作成日時:2022年10月30日 17時