no music no life (ページ4)

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振り返ると、そこには肩を使って息をする拓司がいて。息を切らすその姿に急いで追いかけてきてくれたのがわかる。

「急にどうしたんだよ」
「何でもないよ」
「何でもねぇのに泣くやつがいるかよ」

何なんだよ、と前髪をかきあげくしゃっとさせる。苛立ちと戸惑いの顔。

「私の方が好きだもん…」
「は？」
「私の方がずっと拓司のこと好きだったもん！」

一度箍が外れてしまうと感情というものは抑えられなくなるようで。十数年越しの想いがとめどなく溢れてくる。

「拓司がいるのが私にはもう当たり前で、このままずっと一緒にいるもんだと思ってたのに…なのに拓司はどこか行っちゃうし全然会えなくなるし…私寂しくて…だから今日会えたのが嬉しくて…嬉しかったのに……どうして？結婚なんて…私…私ずっとずっと拓司のこと好きだったのに…」

そこが繁華街で沢山の人が行きかう場所ということも忘れて、流れる涙と共に想いを吐露した。一呼吸おいてから彼の方に視線を移すと、目を見開き固まる拓司。
そりゃそうだよね、ただの幼馴染にそんなこといきなり言われて困らないやつなんていないよ。これからも私たちはただの幼馴染、その意思を伝えようと口を開こうとしたその時だった。

「…なんで。」
「え？」

そう聞こえたのと同時に、掴まれていた腕が引き寄せられる。そのまま倒れこむように身体を預けると強い力で抱きすくめられた。

「たく」
「なんで今それ言うんだよ。俺だって…俺だってお前のこと…」
「なんで…だって…だって拓司はあの人と」
「Aのこと忘れたことなんてなかった。いつだって考えてたよ。学校が忙しい時も、色々手を付け始めて頭が回んなくなった時も、つらい時も楽しい時も、いつだって。」
「…遅いよ。」
「ごめん、会いにいかなくて。もっと早くAに会えてたら…俺…」

胸の鼓動が聞こえる。自分のものなのか、それとも彼のものなのかは定かではないけれど。それはどんどん早く大きくなっていく。まるで私たちを警告しているかのように。「ここから先に踏み込んじゃいけない」と。
だけど、見つめ合う私たちの間にはそんな理性はもうなかった。彼の背中に腕をまわすと、ゆっくり目を閉じて彼を受け入れる。これまでの2人を補うように、そしてこれから始まる罪の重さを刻み込むように、深く口付けを交わした。