047.「お疲れ」 ページ49
冷静に考えてみようよ?
此処は日本で在り、横浜だ。天下のヨコハマ。
大柄な虎がそんな街中に出てくるもんなのか?
……其れとも俺の認識が可笑しいのか?
太宰と国木田は不審がる様子が見受けられないし、被害に遭った場所や目撃情報を確認しながら二人で真剣に話し合っている。
完全に俺と二人の温度差を感じつつも、流される儘に二人に着いて行った。
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「ああ…マジなんだぁ……」
「此れは予想以上に酷いね」
太宰と国木田に連れられる儘、辿り着いたのは被害に遭った畑の現場だった。
目前に拡がるのは作物が無残に食い散らかされて、畑の近くに併設された小屋は人間業で思えない程には損傷が激しかった。
実際に被害現場に行って俺は漸く本格的な依頼なんだと気を引き締めて、地道に聴き込みを始める。
被害に遭われた地主の人に申し訳無い風に装って、下手に其の時の状況などメモを取りながら感じの善い応対で接する。
四年間培った営業のキャリアのお陰で難なく少ない情報を手に入れて、現場を後にした。
そして先刻迄一緒にいた筈の太宰の姿が見当たらず、国木田に問うと彼は元々眉間に皺を寄せていたのが一層濃くなる。
「俺達が現場で聴き込みをしている間にして遣られたのだ」
「えー…」
「良く或る事だが、毎度毎度彼奴は仕事中俺の目を盗んで『良い川だね』と云っては飛び込むのだ。今頃川に流されているのだろう」
「さも普通に云ってるけど、客観的に考えると有り得ない話だよな……お疲れ国木田」
国木田の肩にポンと手を置き宥める様にしていると、逆に俺の肩に国木田の手が置かれた。
同情する俺の態度に嬉しくなったのか、過剰に頷く国木田に本気で彼奴に苦労してるんだなと再認識した。
そして二人の謎の無言の結託をした後、手分けして聴き込み調査をしつつ太宰を探す事に。
俺は国木田と別れた後、先ず向かったのは鶴見川の河川敷。
此処は一ヶ月前に太宰と出会った場所で在り、あの時も太宰は川に流されては、川丘に引き揚げられて倒れていたんだっけ。
奇妙な出逢いを果たし、つい最近の出来事なのに酷く懐かしく思えた。
そんな事を考えながら河川敷を真っ直ぐ歩いていると、目線の先に襤褸を着た少年が川に飛び込もうとしているのが見える。
……え、こんな川に飛び込もうとしているなんて、真逆太宰みたいなタイプ?
走って止めなきゃ、と考えるより先に少年はあたふたしつつも、綺麗なフォームで川にダイブして行った。
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作者名:澪 | 作成日時:2016年6月12日 11時