【刀剣乱舞】新米時の警官。壱。 (ページ11)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:95,011 hit

拾ページ11

＊

まだ拙者が学生だった頃。

爺様が突然亡くなられた。

母上と父上が言うには突然の急死。なんの素振りも前触れもなかった。だが、遺言書はキッチリ用意されていた。爺様のことだ、きっと自らの死を悟っていたのだろう。

既に亡骸となったその姿を見た時には、いとも簡単にボロボロと涙が溢れた。理由はよくわからなかったが、とにかく苦しかったのは鮮明に覚えている。

式の中で泣きじゃくる拙者。母上は焦りながらなだめてくれた。父上は呆れながら傍にいてくれた。二人の愛をあれほど感じたことは初めてだった。余計に涙が流れた。

母上と父上以外は、あまり拙者に興味を示さなかった。別にそんなことはいいのだが、気にかかったのは彼らが爺様そっちのけで話していた内容。

やれ遺産が何だ、それはこっちだ、いやそれは要らない代わりに寄越せ。

確かに爺様の家柄は元々武家で、裕福とも言えるだろう。が、そんなこと後でもいいのではないだろうか。今しなくてはならない話なのか？悲しくはないのか？それとも、爺様が居なくなって清々したとでも言いたいのか？

泣きながらでも、その会話の醜さが酷く耳にこびりついた。彼らは自分の利益しか考えられないのだろうか？

遺言書にはお前のことが最優先に書かれていたんだよ、と親戚に皮肉を籠めて言われた。

爺様の遺言のおかげらしいが、一通り遺言書を読ませてもらった。親戚が言った通り、と言うと複雑な気持ちになったが……拙者の名前が一番多く書かれていた。

拙者を非難する輩には一切財産を分け与えないこと。倉庫の奥にしまわれていた物から飾られていた物まで、代々継がれてきた家宝は全て拙者に相続させること。どうでもいい土地や金などは平等に分け与え、必要があれば身内で助け合う時に優先的に使うこと。その他、爺様と拙者の正義に背く使い方はしないこと。

拙者を心から愛していたこと。

最初から最後まで、爺様のいつもの文字で丁寧に書かれていた。

最後の一文で紙を濡らしたことは言うまでもない。

『お爺ちゃんは何度私を泣かせるの』

そう、爺様は何度私を泣かせるのだ、と“拙者”と呼ぶことさえ忘れ、わんわん泣いた。

既に自らの物となった、何度も眺め見たその家宝の刀と十手を、落としそうになりながら抱き締めて。