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「ねえかわいい。おうち帰ったら爆発しちゃいそう」
「我慢、してよ」
「う゛ぁー、ねぇいっかいだけ、だめ?」
「絶対大嘘だから...」
太腿あたりの縫い目を撫でるような手つきに背中がじっとり汗ばむ。
そういう誘い文句はそれきりで終わるわけが無い、お互いに分かってるのに1度悩んでしまう。
多少揺らいでしまった私を見て耳元で何度も囁きするすると絆されていく。力んで丸くなった手を解して絡めて。
「じゃあマジでちゅうだけ、いっかいだけ」
「さっきしたもん」
「なんでよぉ...おれ浴衣のAともっとちゅうしたい」
昔から甘え上手だったなぁ、この人。
素直で純粋だったあの頃と何も変わってないよ、めいちゃんもね。
狙ってか狙わずか上目遣いで見つめてくる彼の少しとんがった唇にいっかいだけ、触れてみる。
一度離れてはもう一度食むように合わさるそれのどこがいっかいだけなのか、咎めはしなかった。
すっかりいつものように身を委ねていた私から、はっと気づいたように離れていくのがものたりなくて、思わず掴んでいた甚平の袖をきゅ、と握る。
「ふへ、かわいー...」
「ふ、ぁ、めぇちゃ」
「なあに」
「花火終わった」
「ん、そだねえ、帰る?」
気づけば空は煙でもやもやと白んでいた。
外のじめじめした気温と彼に移された体温で体が熱っぽくぼーっとしていると、目の前に手を差し出されたので大人しく従う。
2人ともベンチから立ちやっと気づいたラムネは、炭酸が抜けてなまぬるく変わり果てた砂糖水。
「うぇ、まず」
「忘れてたね」
ぷらぷらと繋いだ手を遊ばせて、静寂さえ楽しみながら家へと足を進める。
風物や夏の終わりの虚無感に襲われた。
「帰りたくないね、東京」
「んーでも帰ったら2人きりだよ」
「うーわぁたしかに...!」
天秤にかけるを具現化したように足をふらつかせる。
私まで転けそうになり騒いでは、眉をひそめて耳を塞ぐ仕草を見せつけられる。なんなんだ、めいちゃんもうるさいよ。
「うん、やっぱ早く帰りたい」
「だね」
「俺の家帰ったらさ、したいことあって」
「なに?」
「Aのこと、独り占めしたいなぁって」
あぁ、結局彼の言うとおりにしちゃう。
そんなの私だって、めいちゃんともっと、
そんなことを考えていると、自然と足早になった事に気付かないふり。
「っめいちゃんさ、ほんとずるい、早くおうち帰ろ」
「ちょ、まって転けるよ」
「ね、いま、家誰もいないよ、?」
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むい(プロフ) - 哀さん» そこまで言って頂けるなんて、とても嬉しいです。ありがとうございます!これからも情緒を揺さぶれるよう頑張ります🙏笑 (2022年8月1日 23時) (レス) id: 9ac3b928f1 (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - こんばんは、夜分に失礼致します。めっちゃ甘々なお話かと思ったら急に切ないお話出てきて情緒がおかしくなことになりました…大好きです。この世に生まれてきて下さりありがとうございます。 (2022年7月31日 23時) (レス) @page26 id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
むい(プロフ) - さくらわらびもち。さん» こちらこそ、ももいくん好きで見てます!いつも見てる方から褒めていただけて嬉しいですありがとうございます😭 (2021年12月17日 1時) (レス) id: d804486ec2 (このIDを非表示/違反報告)
さくらわらびもち。(プロフ) - nrsさんの方も拝読させて頂いています、本当に作者様の文章が大好きです……!これからも楽しみにしています、いつも素敵な文章をありがとうございます;; (2021年12月17日 0時) (レス) @page14 id: 77b5208614 (このIDを非表示/違反報告)
むい(プロフ) - かくさん» こだわっている部分なのでとても嬉しいです、ありがとうございます! 更新頑張ります😌 (2021年12月3日 2時) (レス) id: d804486ec2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むい | 作成日時:2021年11月11日 19時