選んだのは…茶 ページ48
何時もの予告時間。
暗がりであちこちからなる音が少しだけ怖くなって玄関のドアから飛び出す。
まんまるの月にふぅと息を吹けば息がほんのり白くなる。
冬の気配を感じて、上着を取ってこようか思案していると。
バイクのエンジン音と、真っ白な何かが目の前で止まった。
「こんばんは、Aさん。白馬の王子様…では無いんですが…代わりに、白バイの警官でも、良いですか？」
ヘルメットを取って、少し眉をひそめてへにゃりと笑った彼がこちらへと手を伸ばす。
『私にとっては貴方が王子様だから。こちらこそ、綺麗なドレスはないけれど』
「いえ、どんな格好でも貴女は美しいですよ。さ、早く乗ってください。あの人たちに追いつかれてしまう。」
手を取ってバイクの後ろへ飛び乗る。腰のあたりに抱きつけば、エンジン音がしてバイクが走り出した。
「…ついてきてくれたってことは…そういうことで良いんですよね。Aさん」
風の中でも、不思議と彼の声がはっきりと聞こえた。
『あの日みたいに呼び捨てしてくれないの？』
「…ほんま敵わんなぁ。それが返事って事でええか？」
『うん。どこへでも連れて行って。その先が地獄だろうと、貴方の隣ならそれで良い。貴方の隣にいたい。』
ぺた、と背中に頬をくっつけるようにして抱きつく。顔が見えないのか少し寂しいが、耳に聞こえてきた心拍の音に少し笑う。
『凄いドキドキしてる』
「愛する人とこんなに近くにいて、勿体ないくらい最高の口説き文句を貰って、平常心でいられる男の方が少ないですよ」
『そっかぁ』
ふふ。と笑いながら抱きつき直して背中に体重を預ける。
あたたかい。暫く忘れていた、ひとのあたたかさ。
「ちゃんとしたところでプロポーズはやり直させてくださいね。指輪も買うので…」
『そういうとこエミさん真面目だよね』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：一 | 作成日時：2022年12月14日 12時
