212話 ページ14
ーお祖父ちゃんを助けたかった。
ポツリと零した言葉をその場の全員が拾った。
「……Aちゃん?」
心配そうに私の肩に触れる白澤さんを今は退ける余裕もない。
伝えたい言葉がポロポロと零れていく。
『私の事を家族にしてくれて有難う。』
『居場所を作ってくれて有難う。』
『私と善逸を出逢わせてくれて有難う。』
『あの世界で初めに出逢ったのがお祖父ちゃんで良かった。』
『お祖父ちゃん大好きだよ、ずっと。』
声が震えているけど、泣いてない。
多分、今の私は下手くそな笑顔を浮かべているんだろう。
皺くちゃなお祖父ちゃんの手をギュッと握る。
あの温かな体温はもう感じられない。
それでも、その手を離さず下手くそな笑顔のまま最期の想いを伝えた。
『この先も、どんな世界に行っても“桑島A”と……桑島慈悟郎の孫だと名乗ってもいい?』
お祖父ちゃんはポロポロと涙を溢しながら手を握り返してくれた。
とても力強く、私の大好きな手で。
「……胸を張って儂の孫だと名乗れば良い。血が繋がってなかろうが、間違いなくお前は儂の孫じゃ……!!誰がなんと言おうとこの桑島慈悟郎の孫じゃよ……!」
嬉しくなって思わず抱き着いた私をしっかり抱き止めてくれる。
小さい頃、何度も背負ってくれた大きな背中はいつの間にか小さく感じていた。
抱き上げてくれた腕は変わらず安心できる。
生まれて初めて祖父という存在に触れられた。
私にとっての祖父はこの桑島慈悟郎、唯一人だ。
あの家で、お祖父ちゃんと善逸と獪岳さんと過ごす事はもう2度と叶わないけど忘れたりはしない。
「……Aちゃん、お爺さんを戻さないと。」
『……はい。』
そっと身体を離して今度は下手くそじゃない笑顔を浮かべれば、お祖父ちゃんも笑ってくれた。
「善逸と幸せにな。」
『それは善逸の決断次第かな。』
「大丈夫じゃよ、あやつはお前を幸せに出来る唯一の男じゃからな。」
『お祖父ちゃんの言葉なら信じるしかないや。』
「…体調には気を付ける事と怪我はあまりせんように。」
『ふふ、はーい。』
神獣の姿に戻った白澤さんの背中にまた乗って去っていくお祖父ちゃんに手を振って別れを告げた。
「……相変わらず泣きませんね、貴女は。」
『泣きませんよ、笑顔でお別れしたいので。』
仕事を終えた鬼灯さんが声を掛けてくる。
いつから居たのか知らないけど、黙って見守っててくれたのだろうと予想はつく。
シロさんや柿助さん達が泣いてるのを見て苦笑した。
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作者名:みゅう | 作成日時:2021年2月16日 6時