回る紙飛行機 Ren.N (ページ10)

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「そういえば花火大会、もうすぐだね」
電車の中で、花火大会の広告を眺めていたら、彼女がそう言ってきた。

「そやな」
「去年は雨で中止になっちゃったんだっけ」

そうや。
去年は、雨で中止やった。
毎年楽しみにしとるAは、直前まで雨が止みますように～～～！って浴衣で祈ってて、でも結局止まんくて半泣きやった。

「どーせまた来年も一緒に行くからええやん。てか毎年行っとるんやし飽きひんの？」
とか、俺が言ったのに対して
「廉はなんでそんなに冷めてるの！」とか怒っとった。

Aとはその後ぐらいから話さなくなった。

「廉くん？」

ハルナが服の裾をクイクイっとしてきて、ハッとする。

「ん？なに？」
「浴衣、去年新しいの買ったのに着れなかったんだ～」
「へぇ、そーなんや」
「……」
「え、どうしたん」
「ううん、なんでもない。花火大会、一緒に行こうね」

あ、そうか。
これは一緒に行く流れなんか。
そうか。彼女やしな。うん。

でも、俺が彼女と行ったらAはどうなる？
ひとり？
毎年2人で行くのが当たり前で、同じ小学校の奴らもそれがわかっとったからか誘われもしなかった。

Aに友達が居るのは知っとる。
たまに見かけるとき、例えば食堂とかで。
自分は弁当やけど友達は学食やから食堂で仲よさそうに昼飯食っとるのを何度か見た。
でも。この日は、お互い暗黙の了解で予定を開けてて。

うーん。

「いや、彼女ほっといてほかの女子と花火大会行くとか有り得へんから」
「やっぱそうやんな？」

電話口から聞こえてくる大吾の声は、あからさまに呆れていた。

やっぱ一般的にハルナと行くべきなんや。
でも、Aになんて言おう？
彼女できたから一緒に行けなくなったとか言ったら怒る？
いや、てか俺ら別に一緒に行く約束してへんやん。
うん。流れでいつもそうなるだけで。
Aも俺が彼女できたって知っとるやろし。
もはや言わなくてええんちゃう？
去年俺が言ったことなんて忘れとるやろ。
Aはどうせ俺のこと兄弟みたいに思っとるんやし。
うわあ。自虐しすぎやろ、俺。

「廉さん、彼女と幼馴染を天秤にかけとる時点で…」
「言うな、それ以上」
「…まあ、あんま無理せん方がええで」

無理、してへんし。
ふと、自分の部屋にある鏡に映る顔が見える。

無理しとらん。
大丈夫。