27.俺はもうおじさん、君は... ページ27
.
.
水を掛ける。
…寒くない？凍えてない？
.
雑巾で吹いて、しっかりと歯磨きで汚れを取る。
出てきた汚れを流すために、もう一度水を掛ける。
.
.
.
薬指にはキラリと光る婚約指輪。
…あの日に、ずっとつけてろって言われたからずっと付けてんだぜ？
従順じゃない？俺にしては。
.
出会ってから10年目。
付き合ってから9年半。
.
はぁ、と息を吐けば白い息が宙を舞って空に上がってく。
…この息は、きみに届いてるかな。
.
「…届いてるよ。見てるよ。智くんのこと。」
.
届いてるんなら、俺はそれでいいよ。
.
最後に雑巾でまた吹いて、花を添える。
元気ですか、幸せですか。
.
「元気だよ、幸せじゃないけどね。」
「私の幸せは、大野くんが隣にいることだからちょっと辛いかもしれない」
.
風に乗ってAの声が聞こえた気がした。
元気だよ、幸せだよ。なんて声。
…たぶん、あっちでもすごい笑顔で周りを賑やかにさせてんだろうな。
.
.
最後にふっ、と息を吐いて立ち上がる。
目を細めてそれを見つめると泣きたくなるのは毎度のことだ。
.
.
.
Aが、俺の前からいなくなってから
2年が経ちました。
.
俺はもう、すっかりおじさん。
とにかく体のいろんなところが痛み始めてきて
うわ、年取ったなって思うことが何度もある。
.
…あぁ、知ってるか。
Aは如何なるときも俺のこと見てくれてるよね。
…そうだよね。
.
.
『永遠なんて幻だった。』
『永遠に一緒にいれるわけがない。』
『愛なんていつか終わるんだよ』
.
そう言ったAを思いっきり怒鳴った。
愛なんて、終わるわけない。
ずっと、どこかで繋がっている。
.
永遠は永遠でずっと続く。
俺が言ったら絶対なんだよ。
永遠の愛なんて終わるわけない。
終わらないって信じてれば終わらない。
.
.
病弱で痩せ細った体を優しく抱えあげて
頭を撫でれば、ネジを緩めたみたいに泣き出すAをただ抱きしめる。
…もっと、生きれたら。と声を振り絞るように出た言葉が何よりも切なくて。
.
*『余命は長くて1ヶ月です』
*『我々が手を尽くせるのはこれだけです』
.
おいおいA。
天才医師なんだろ？
自分の病気治してくれよと何度願ったか。
.
28.腕を離してしまったならば→←26.恋もした、喧嘩もした、笑い合いもした、互いを互いが幸せにした、これが夫婦だと気づいた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 279人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：成瀬
| 作成日時：2017年12月7日 20時
