メリー・ウィドウ

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「お疲れ様です」









あれから二週間後の今日、生ビールの入ったジョッキをぶつける相手は、美咲ちゃんだった。









『再来週とかどうですか？』という美咲ちゃんからの連絡に『大丈夫』の一言で返せば、何時に何処という詳しいメールが送られてきた。









思えば、決められた通りにご飯に行くのも、女の子と二人で飲みに行くのも、初めての事かもしれない。









Aはお酒を飲まないから俺が飲む時はいつも家だし、ご飯に行く時はその日の気分で決めているから。









俺にもまだ初めての事が残っていたんだなと、呑気に思う。









「それで、うちのミミちゃんが…」









ニコニコと楽しそうにペットの話を続ける彼女とは反対に、俺はタバコを吸いたいという気持ちを抑えるので必死だった。









「ほらこれ、めっちゃ可愛くないですか？」









「ほんとだ、可愛い」









「えっ、」









「ん？」









「…あ、ごめんなさい。猫の事なのに、なんかドキッとしちゃって、」









へへ、と照れたように笑う彼女に、適当に出てしまった言葉だなんて言えなくて、タバコを吸いたいと思ってしまった事が申し訳なくなる。









「美咲ちゃんも、可愛いよ」









そんな言葉に顔を赤く染めて俯く彼女は、ポツリと言った。









「……翔太さんに、聞いたんです」









「え？」









「目黒さんが、動物が好きだって。…だから、ペットの話とかすれば間違いないかなって、思って」









「ふふ、うん」









「…本当は、どんな話したら良いのかなって、色々考えちゃってたから。…ごめんなさい、私から誘ったのに」









眉を下げて照れくさそうに言うから、可愛いなって思って、それからいたたまれない気持ちになって、猫より犬が好きだなんて言えなかった。









なんて健気なんだろう。









純粋で無垢な彼女に心が動かされる。









「ありがとう。俺のために色々考えてくれて」









だけど、どうしてだろうか。









俺は今、タバコが吸いたくてたまらない。









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