図書室の赤葦くん【赤葦京治】 (ページ3)

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貸出ページ3

事実は小説より奇なり、って言うけど、確かに人生何が起こるかわからないもんだなって思った日のこと。

私は、その日は貸出しの係だったので、カウンターにいた。

といっても利用率の高くないここには、頻繁に人は来ないし、係とは名ばかりで、ゆっくりと読書に専念できる場所。

今日は海外文学に手を出してみようかなと、カミュを読み始めたところだった。

「貸し出し、お願いします」

ハッとして顔を上げて初めて、そこにいた男子に気付いた。

「2602のアカアシです」

全集の君だ。
緊張で若干震える手を抑えつつ、パソコンの操作をする。

「にぃろく、にぃぜろの、えーと、あかしさん」

「あかあし、です、すみません」

「あっ、こちらこそすみません、ありました」

危ないあぶない、全く別人の明石くんのバーコードを読み取りそうになってしまった。
まあ番号で聞いてるから分からないことはないんだけど…。

名前を聞き取り間違えてしまったことに、とんでもない焦りを内心感じながら、ファイルをめくって個人バーコードを合わせる。

「4月30日までです」

「ありがとうございます」

普段なら、カウンターの作業をやっていても、あまり人と目が合わない・合わせない。
でも、ふと、見上げた顔が思ったより高いところにあったものだからつい顔をじっと見てしまって、ふいと逸らされて行ってしまった。

思いがけず「全集の君」と接触してしまって脳内が大パニック。

思っていたよりも結構背が高いんだ。

何部に入ってるんだろうか。

あかあしくんは普段どんな本を読むんだろうか。

いろんなことを考えていたから、その日の読書はあまり捗らなかった。