【鬼灯の冷徹】短編集其ノ三【成り代わり】 (ページ1)

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女神獣様と2人の悪女ページ1

桃源郷の漢方薬局、「極楽満月」にて。

「A様ー、薬の調合終わりまし…た…」

ちょうど奥の部屋から出てきた桃太郎は、この店の主でもあるAに声をかけようとして、店内に見知らぬ女性が居ることに気がついた。

「あら、お弟子さん？」

『是的(そう)！桃タロー君、こちらは妲己ちゃん。ウチのお得意様だヨ』

「は、はぁ…」

『会うのは初めてだよネ？』と微笑んだAに突然とんでもない美人を紹介されて、桃太郎は面食らった。

そして、今しがた聞いた名前を反芻して首を傾げる。

「妲己って…あの？」

中国における殷の時代、紂王の寵愛を受け贅を尽くし、残酷な刑を考案した"悪女"の代名詞ともいわれる人物…というのが、桃太郎の知るところの妲己像だった。

そんな彼の考えを見抜いたかのように、妲己は妖しく微笑んだ。

「"あの"っていうのがどの程度なのか分からないけど…まあ、そうねぇ…アナタが思っているのと、大して変わらないわ」

「あっ、なんかスミマセン」

本人を目の前に"あの"とか、失礼だったよな…と、桃太郎は慌てて謝罪する。

それを見て「可愛いわねぇ～」と言っている妲己は、世間の自分に対する評価等は特に気にしていないようだった。
ちなみに、正体は妖狐、九尾の狐である。

『いつもの薬でいい？他に必要なものがあったら言ってネ』とカウンター越しに声をかけてきたAから薬を受け取ると、妲己は思い出したように叫んだ。

「そうだわ！A様に紹介したい友達が居るのよ！」

『妲己ちゃんのお友達？女の子なら大歓迎だヨ』

「今ちょうどこっちに観光に来てるみたいなのよねぇ」

『女の子(新規のお客様)は大歓迎～』と笑顔で返したAの前で、妲己がさっそくスマホで連絡を取り始める。

それを見て、
「(妲己さんの友人て、どんな人だろ…いやそもそも人なのか？)」と桃太郎はぼんやり思った。

『桃タロー君、妲己ちゃんに見とれるのはわかるけど、配達忘れないでネ？』

「んなっ…ち、違いますよっ！！」

Aに言われてハッとした桃太郎は、「そういうんじゃないんで！！」と慌てて否定すると支度を始めた。

「行ってきまーす」

『行ってらっしゃい！拜托了(よろしくね)～』

店を出ていく彼にニコニコと手を振って、Aは妲己のほうを振り返る。
どうやら彼女も、件の友人には連絡し終えたようだ。