【鬼灯の冷徹】地獄の閻魔様に成りました【其ノ四】 (ページ15)

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時には昔の話を⑮ ページ15

『え…』

「貴女と離れるなんて、嫌です」

でも自分はまだ、彼女の隣に並び立てるような存在ではない。
周囲を納得させるには、今のままではダメなのだ。

「必ず、貴女の元に行きます。だから…待っていて下さいますか」

思えば、あの時──結婚を申し込んだ時からずっと、彼女を待たせてばかりだ。
このまま離れたら、忘れられてしまうのではないかと不安になる。

でも彼女はまた、
『待ってるね』と、そう言って嬉しそうに微笑むのだ。

Aを途中まで見送って帰宅した鬼灯は、彼女が居なくなった家の扉を開けて、ふと思った。

『おかえり』
という言葉が返って来ないのは、こんなに寂しいことだっただろうか…

きっと彼女はこれからもっと忙しくなるだろう。
会いたいと思っても、今までのように簡単には会えなくなってしまうかもしれない。

力になると言ったのに、こういう時、そばに居てあげられないのが凄くもどかしい。

「本当に…早く大人になりたいですね…」

鬼の成人の定義は曖昧らしく(そもそも歳の取り方がヒトとは違うので)、どこからが大人…というのも明確には定まっていないらしい。

教え処…今で言う学校を卒業して、働き始めたら一応成人扱いなのだが、現時点、自分はそれには当てはまっていないのである。
子供ではないけれど、大人でもない…そんな感じだ。

「(手紙を書くくらいは、許されるだろうか…)」

と、1人になった部屋の中で、鬼灯は思いを巡らせたのだった。

一方、
閻魔殿に到着して荷解きを終えたAは、これから自分の部屋の寝台になる予定の場所に寝転んで天井を見上げる。

「ただいま」って言って帰って来る人が居ないのって、こんなに寂しいことだったんだ…

なんて、ぼんやりと思う。

『鬼灯君…ちゃんとご飯食べてるかな…』

昨日まで一緒に暮らしていたわけで、今生の別れとかではないわけで…
多分、会おうと思えば、会いに行けるのだけれど。

こんなにもすぐ、会いたいなぁ…と、思うなんて。
いつの間にか、彼の存在が自分の中で大きくなっていて、そばに居るのが当たり前になっていたことに今更気がついた。

鬼灯君あのね、私…貴方のこと──

別れ際に言おうと思って…
でも今はその時じゃない気がして、結局、出てきた言葉は『…またね』だった。

『(…お手紙でも書こうかな)』

会いに行けなくても、文通くらいならイザナミさんも許してくれる…と思う。多分。

Aは起き上がると、便箋を探し始めたのだった。