【d!】たっぷりの愛をひとくち【短編集】

57.リベラルに行こうぜ(gr) ページ10

.
現パロ


攻略本を使わずにゲームをするのが好きだ。
あれこれ自分で考えて、クリア出来た時の達成感は一入である。


だからと言って、別に攻略本を見ながらプレイする人間を嫌悪している訳ではない。
需要があるのも頷けるし、皆が皆俺と同じでない事くらい分かっている。


ただ俺は、ある種経験値の１つを得る目的として攻略する事に価値を見出しているだけである。

多分、これからもそれは変わらないだろう。





閑話休題。




ちらりと視線をやった先、Aは数時間前と同じ姿勢でカウチに腰かけたまま、静かに本を読んでいる。

彼女の長い髪はいつのまにか紅いバナナクリップで纏められており、白いうなじが覗いていた。


真っ黒な髪に似合うそのヘアアクセサリーは、少し前に俺からプレゼントしたものであり、Aは俺と2人きりの時にだけそれを着ける。


会社でそれを着けている所は見た事がない。
きっと彼女なりに思う事があるのだろう。



卓上ですっかり温くなった紅茶を一口含んで、伏し目がちな横顔を何となしに眺める。






取り組んでいた書類作成が佳境に入り、パソコンと睨み合いを続けるのにも飽きた為、何か別のものを見たくなった。


それは出来れば綺麗なものが良いし、何なら自分の好きなものが良い。


レースカーテンを透かした柔らかな光が、Aの白い肌に斜めに差し込む。

すっとした顔に殊更陽の光は映えて、儚げな印象に拍車がかける。



贔屓目なしに美人な彼女が作り出す光景は1枚の絵画のようで、誰にも見せたくないような、いっそ閉じ込めて独占してしまいたい気持ちが芽生えた。






付き合うきっかけはAからだった。


小ぶりだが綺麗に包装がなされたチョコレートと共に受けた告白は、自慢でないが生きてきた中で散々周囲の女性からされてきたものだった。

しかし、今迄の媚び諂うような、汚い感情が見え隠れするような告白とは違ったさっぱりしたそれに、不快感を抱く事はなく。



1ヶ月後に渡したマカロンと共に、俺達は始まった。





正直な話、それまでAの事をちっとも知り得なかった。

故に付き合い始めてから彼女について色々知る事になった訳だが、意外にもそれは向こうにも言える事の様で。



アップルパイが好きだと話したら、甘い物好きなんだね、と。


チョコレート本当は嫌いなんじゃないかって、ずっと心配だったの。


大きな目を丸くさせた後、少し照れ臭そうに頰を指で掻いていた。


.

＊→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す