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「この粉を混ぜてね。撒き散らかさないように。執事が死んじゃうわ」
「はあい」
卵を割る力加減を間違えたAが泣きそうになる事件を無事に収めて、三人仲良く広いキッチンで小麦粉(ヒ素入り)を混ぜる。
休日に親子で料理をするのは珍しいことではないので、専属シェフも微笑ましく見守っている。最初に三人で訪れた時は泡を吹いて倒れたが、人とは慣れる生き物だ。
「そのくらいでいいわよ。次は生地を伸ばしましょう。綿棒で、こうやって」
「楽しそう!イルくん、わたしがやっていい?」
「いいけど」
ずり落ちた袖をまくり直し、Aは気合たっぷりに丸められた生地を綿棒で伸ばし始めた。厚さが不揃いなのはご愛嬌だ。
先ほどから、何か作業が変わる度にAはイルミに許可を取る。楽しいことを独り占めしてはいけないと思っているらしい。
イルミとしては、こうして楽しそうに何かに没頭している姉を見ていると表情に出ないだけで楽しいから、いっそ全て任せても構わないと思っている。
「伸ばしたー」
「上手ね!それじゃあ型抜きに移るわよ。好きな形を選んでね」
「いっぱいだ!イルくん!イルくんも選んで!」
「はいはい」
「はいは一回だよ、イルくん。めっ」
修行ではイルミに負けがちな分、少しでもイルミが失敗するとこうして嗜める。
普通の兄弟ならうざったいと思うのかも知れないが、イルミはそもそも失敗が少ないのでたまのお姉ちゃんぶりくらいは許容している。
キキョウが引っ張り出してきたカゴには、金属製のクッキー型が大量に入っていた。ハートや星、お化けやパズル。一度の型抜きでは使いきれない量だ。
Aは可愛いからとハートを大量に作っている。特にこだわりがないイルミは、何となく手に取ったウサギを生産し始めた。
「イルくん、ウサギさん好きなの?」
「あー……うん、まあ」
「知らなかった」
今でっち上げたから当然だ。好きではない、と答えようものなら「かわいいのに!」と無限に続く抗議が始まるので、イルミはなあなあに誤魔化した。
抜き終わったら生地を再度伸ばし、また型を抜く。それを何度か繰り返して、三十枚にはなるだろう小さなクッキー生地を、オーブンで十五分。
真っ赤な光を放つ庫内を、Aは興味津々に眺めている。黙っていればできあがるまでそうしていそうな彼女をキキョウが回収し、時間を潰すために絵本を読もうと提案していた。
ちなみに、イルミはこの隙に逃げようとして失敗した。
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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時