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「イルくん、みっけ」
ゾルディック家の中でも人の出入りが少ない、薄暗く資料室の隅にうずくまっていたイルミを、Aはほとんど直感のみに頼って見つけ出した。
声をかけられても振り向かない。イルミはこれで頑固なところがあることを、何度かの姉弟喧嘩で知っていたAは、何も言わず隣に腰かけた。
「……拗ねてるの?」
「拗ねてない」
「でも」
「拗ねてないってば」
いつもはイルミがAに聞くことであるから、何だか不思議な気分だった。
そして、こんなにも強情に言い張る弟を見たのも初めてだったから、新鮮味を感じてついくすくすと笑ってしまった。
「イルくん、あのね。わたし、飛行船では言わなかったけど、もしお父さんがわたしのことを家族って認めてくれなかったら、こう言うつもりだったんだ」
膝を抱えた手を取り、そこでようやく顔を上げたイルミの目を真っ直ぐに見つめ、Aは爛漫に言った。
「イルくんと結婚する、って。イルくんと結婚したら、わたしも家族になれるでしょって、言ってやろうと思ってたの。……それくらい、イルくんのことが好きなんだよ。
お父さんも好き。お母さんも好き。おじいちゃんも、ひいおじいちゃんも好き。執事さんも好きだし、ミルくんも、これから生まれてくる弟達もきっと好き。
でもね、でもだよ?結婚できるって思えるのは、イルくんだけ……わっ!?」
いきなり飛びつくように抱きつかれ、二人して床に倒れ込んだ。
Aの肩に額を押し付けて黙りこくるイルミの頭をそっと撫でてやる。
実をいえば、Aはイルミがこれほどまでにぶすくれている理由を明確に理解しているわけではなかった。
ただ、自分が言われたら嬉しいことを伝えてやっただけだ。その言葉が、どんなものよりもイルミを救い、同時に底なし沼へ導くかも知らずに。
「姉さん」
「なあに?」
「今の、本当?」
「ほんとだよ。嘘なんかつかない」
「じゃあ、……何か、証拠出してよ」
彼らしからぬ子どもっぽいわがままに一度は口元を綻ばせたが、真剣な眼差しに顔を引き締めた。
しかし、証拠といってもどうしたらイルミは満足してくれるだろうか。Aの中にある夫婦の知識などたかが知れている。
その内でも今すぐにできること。しばらく首を捻った末、Aは不意にイルミの目元を手で覆った。
一瞬重なるだけの、ひどく拙い幼稚なキス。
本の背表紙だけが見た、カビ臭い資料室での逢瀬は、二人の記憶に克明に刻み付けられた。
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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時