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イルミの視界からAの姿が消えた。シルバが、そのたくましい腕でもって、大切な娘を掻き抱いたからだ。
「そうだな。ああ、その通りだ。お前はオレ達の子だ、A。おかしなことを言ったお父さんを許してくれるか?」
「うん。お父さんはわたしのお父さんだし、お母さんもわたしのお母さん。で、イルくんもわたしの弟!これでぜーんぶ大丈夫!」
厳格な父からの愛にあふれた抱擁が嬉しいのだろう、Aはくすぐったそうにくふくふと笑いながら固い胸板に頬ずりをした。
心配など要らなかった。問題などどこにもなかった。不安がる必要も、罪悪感を抱かねばならないことでもなかった。
Aにとってゾルディック家は大切な家族である。
何ものにも揺るがない意識の前に、血族であるか否かなど砂つぶにも及ばない些細な事柄であったのだ。
恐らくは、誰よりも安堵したのはイルミだった。
彼にとって最善の結末が眼前にある。血縁関係にないことを受け入れながらも、これからも家族として過ごせる。
相反していた願望が同時に叶えられた。叶ってしまった。
これにより、歪みきった愛情は修正されることなく芽を伸ばしていくことが決定したのだが、それを悟った者は本人を含め一人もいなかった。
「ねえ、お父さん。お父さんからのお話し、これでおしまい?」
「いいや、まだある。実はな、お前達に弟ができたんだ」
「本当!?イルくん!イルくんにも弟ができたんだって!」
新しい家族の話題にはしゃいだAに揺さぶられ、イルミはようやく我に返り、彼らの言ったことを言葉として呑み込んだ。
聞けば、A達が闘技場に行ってから二年後、伝統に基づいた跡継ぎを求めてまた一人子どもを授かったらしい。残念ながら、またキキョウの血を色濃く継いだ。
名前はミルキといい、今はまだ一歳の赤ん坊である。
「どんな子に育つかなあ、楽しみだね、イルくん」
通常子どもが抱きがちな、親の愛情の分散への恐れを、Aもイルミも抱くことはなかった。
ゾルディック家は特別な家庭である。
それを根底に理解しているから、将来生まれる銀髪の子が優遇されがちになることは分かりきっていたし、“家族”という存在そのものに持つ深い愛が、子ども特有のわがままをも打ち消した。
そもそも、それ以前の問題ですらあった。ゾルディック家において、愛とは相対評価ではなく絶対評価であるからだ。
誰かに多くなることはあっても、今あるものが少なくなることはない。
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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時