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この姉は、イルミの存在一つで人間にも悪魔にもなる。それがたまらなく喜ばしくてならないのだ。
それは歪んだ独占欲。感情の表出が極端に少ないため、シルバやキキョウも息子の性格を知らず、また本人すら知らないところであるが、イルミは元来支配欲の強いたちであった。

Aを人たらしめ、同時に彼女から人間性を最も奪うことが叶うのは自分だけである。
手綱を握っているに等しい不動の事実は、イルミが抱える仄暗い愛情をこの上なく満足させた。

きっと彼女は、自分自身が罵られるよりもイルミを侮辱された方が怒りを露わにするのだろう。
イルミとて同じことだ。例えば姉が軽蔑の目にさらされたとしたら、居並ぶ眼を全て潰してしまいたくなる。

唇が三日月に変貌するのを押さえきれなかった。
イルミはAを愛している。Aもまたイルミを愛しているに違いない。
互いに歪曲した愛情を抱え込みながら、普通の姉弟のように振る舞い笑い合う異常さといったら、なんと滑稽で美しいのだろう。


「姉さん」

「んう?なーに、イルくん」


焼き立てのホットケーキを口いっぱいに詰め込んでいたAに、イルミはうっそりと微笑んだ。


「ありがとう」


その一言に込められた歪な思慕をAが正しく理解していたのかは当人以外分からない。
しかし彼女は誇らしげに胸を張り、「お姉ちゃんだからね!」と喜色を浮かべるのだった。

お姉ちゃん。Aは未だ、イルミと本当の姉弟であることをつゆほども疑っていない。それが少し、イルミにとっては厄介だった。
何故厄介と思うのかと問われたら明瞭な答えを返すことはできない。つい二ヶ月前は真実が発覚することを恐れていたというのに、その矛盾に気づかない。

Aの精神的な成長が予想以上に順調であったから、本当のことに気がついても何とかなるという希望が大きくなったからといえばそれまでだが、イルミ自身の心境の変化も少なからず影響しているだろう。
愛情の形の変質。家族に向けるそれとは異なるものが、確実に芽吹いている。

Aが血縁の事実に察しをつけないのと同様、イルミもまた、自身の内に芽生えている感情の正体に気づかない。
心の奥底でひっそりと、しかし着実に肥大しつつあるものに、ともすればイルミは自ら目を背けて見ないふりをしていた。
自覚してしまえば後戻りはできないことを本能で感じ取っているのだろう。彼はまだ幼さゆえに、Aと純真な家族でいたかった。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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