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静まり返ったドームで、Aは更に続けた。


『三十秒過ぎたら右足を折ります。それでも来なかったら三十秒後に左足を折ります。それでも来なかったら三十秒ごとに目を抉ります。その後三十秒経つごとに、指の先から関節のところで折っていきます。
弟の体に傷があったら、同じ数だけ歯を抜きます。大事に連れてきて下さいね。わたしの大切な弟なの』


観客は揃って呆然としていた。盛り上げ役の司会も、今ばかりは言葉を発せずマイクを握りしめるばかりだった。
ロビーにいたイルミにちらちらと視線が向けられる。Aとイルミが姉弟関係にあることは既に周知の事実であるから、口には出さずとも早く動いてミルドレを助けてやれという空気が蔓延していた。

いつも通り鉄面皮のまま立ち上がろうともしないイルミのもとに、ばたばたと三人の男がやって来た。


「い、イルミくん!イルミくんだよな?頼む、一緒に来てくれ!急がないとアイツが……!」


大柄な男が揃って年端も行かぬ少年に頭を下げる様子は尋常ではない、倒錯した光景だ。
イルミはそれを当然のような顔で一通り眺め、「いいよ」と一言、椅子から降りた。

救世主を見るかのように涙をためてイルミを仰ぐ男達に連れられ、何とか一分以内に観客席に姿を現すことができた。
今にもへし折ろうと左腕を捕らえていたAは、傷一つないイルミを視界に認め、先ほどまでの冷酷さは幻だったのだと思えるほど満面の笑みを浮かべた。
可愛らしい、年相応の少女が見せる笑顔と何ら変わりない。その豹変が、尚更、観客達にとっては恐ろしかった。


「イルくん!怪我はなあい?」

「どこにも。オレは無事だよ、姉さん」

「よかったー。よかったね、お兄さん。腕の一本だけで済んでよかったねえ。でも、次におんなじことしたら、もう許さないから」


弟の無事が確認できたのならもう用はない。そう言うようにAはあっさりとミルドレを解放し、観客席の通路に立つイルミにぶんぶんと手を振った。

試合は続行不可能。Aの勝利となった。
当然のことながら、盛り上がる者は誰一人としていなかった。



ひとまずは個室の権利を安定させて、二人は喫茶店で少し遅めの昼食を取っていた。
先ほどの試合を見ていた者は、わざわざ席を移動して遠巻きに姉弟を眺めている。

それらの煩わしい視線が少しだって気にならないほど、イルミの心の内は歓喜で満たされていた。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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