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『おーっと容赦ない膝が決まったぁー!』


アナウンスが盛り上がり、審判もクリーンヒットを宣言する。
驚いたのはミルドレだ。ハッタリとはいえ、いつ見ても行動を共にしていた弟をダシにしたのだから、下手に動くことは躊躇われると思っていた。
思うように動けない内にいたぶり、いつものように勝ち星を得るつもりだった。

それがどうしてこんなことに。噴出する鼻血を視界の端に収めながら、怒りと困惑の狭間に揺れ、しかし仮にもここまで勝ち上がってきた腕はある。
咄嗟にカウンターを放つが、既にそこにAはいなかった。
代わりに後頭部に強い衝撃が走り、たまらずうつ伏せに倒れ込んだ。


「クリーン&ダウン!」


審判が高らかにポイントを叫ぶ。それは自分が獲得するはずだったものだ。
身の丈半分もない子どもに打ち倒された屈辱に跳ね起きんとするミルドレの体を、Aが上から押さえつけた。いつの間にか右腕が背に回されている。

何の忠告もなかった。一切の躊躇もなかった。唐突に、右腕を想像すらしない激痛が襲った。
折られた。利き腕を。事態を認識するのに、そう時間は要らなかった。


「ぎっ、ぎゃああああ!」


肘が真逆の方向に折れ曲がっている。燃えるように痛い。骨折箇所が熱を帯びて正常な思考を奪う。
痛い。痛い。痛い。痛い!どうしてこんな目に!

ごろごろと石板上を転げ回るミルドレの髪を掴んで、Aはその体格に似合わない粗暴な足取りで男の体を引きずり、リング端に取り付けられているカメラの前に立った。

ロビーのモニターにはAの足と、苦痛に歪むミルドレの顔が写っている。不意に画面が揺れ、表情が剥がれ落ちたAの顔が大写しになった。
観戦していた女性が悲鳴を上げた。無理もない。なまじ整った顔立ちの分、能面のように感情を宿さない様子は人間味というものを感じさせない。


『聞こえますか?映ってる?映ってるよね?』


その声色に、イルミですら身震いした。
機械が話しているような温度のない声が、モニター越しに響く。ミルドレのうめきが重なったそれは、根源的な恐怖を煽るには十分すぎる代物であった。


『この人に協力してる人達に、今から命令します。
一分以内に弟と一緒にこの会場に来て下さい。来なかったらこの人の左腕を折ります』


観客席も、モニターから見ていた野次馬も、最早歓声を上げることなどできなかった。
画面に映るのが本当に少女といっていいものか、皆恐れをなしている。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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