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時に圧勝し、時に苦戦を強いられ、時には試合のない日を過ごし、およそ二ヶ月かけて二人は同時に百階クラスへと到達した。

人気の闘士には二つ名が与えられる。
Aは戦う前に必ずあの質問をすることから、「幼き哲学者」と。イルミは鉄仮面ぶりが話題となり「冷酷な殺戮人形(オートマタ)」と名付けられた。
決して殺人はしていないのだが、響きがいいらしい。案外浸透している。


「個室だー!これでお金は心配いらないね、イルくん」

「そうだね。負けたらすぐチェックアウトだから、初戦は重要だよ、姉さん」

「もっちろん、頑張るよお!」


百階クラスからは無償で個室が与えられる。
下の階層とは格別に待遇が異なるため、ここからは闘士のモチベーションも高いだろう。油断せずに戦わなければならない。

ここまでの道のりでイルミが最も懸念していたのは、Aが敗北した時の精神状態だったのだが、それは然程問題なかった。
ネテロに負けたことで強者の存在を認識したのだろう。負けても少しぶすくれるくらいで、泣き喚いたりはしなかった。

それだけでも随分な成長が見て取れるのに加えて、彼女には一つ明確な目標ができた。
二百階に到達することではない。五十階を勝ち上がった夜、Aは宿泊している部屋でイルミに告白したのだ。
ハンターになりたい。そんな夢を。


──ネテロさんに負けたままじゃ悔しい。でもこのままじゃ絶対勝てない。少しでも強くなりたいの。だから、ハンターになってみたい


当然、イルミは反対した。修行なら他にいくらでもある。
暗殺家業をするにあたって現状ライセンスは必要でないし、Aは知らぬところであるが、協会の一員になると様々な制約が課せられる。
確かに資格を有することでメリットはある。だがそれ以上に、Aを無頼漢のさばる試験に出場させるのを黙って見過ごすことはイルミにはできない。

ハンター試験の存在すらイルミから聞くまで知らなかった彼女は、その危険性を聞いても頑として意見を変えなかった。家に帰ったらシルバに直訴するつもりであると言う。
こうなると何をどう言っても聞かないことは数々の姉弟喧嘩を経て分かっているので、イルミに打つ手はなかった。
キキョウは間違いなく反対するであろうから、そちらに賭けるしかない。

「強くなりたい」という漠然とした目標しか持っていなかった彼女が、初めて抱いた具体的なゴール。
祝福すべきそれを素直に受け止められないことも、また歯痒かった。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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