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ふらふらとした足取りで部屋に戻り、汗だくの体を清めてからもAは呆然としたままだった。
イルミから受け取ったボールを抱えて微動だにしない。ベッドの上で中空を見つめる姿は瞑想しているようにも見える。

くるくるとゴムボールを弄んでいたAを部屋から引っ張り出すのには難儀した。
イルミが声をかけても生返事しかしないので、今日ある試合のことすら忘れているらしかった。
控え室に入ってからもぼんやりとした態度は変わらず、とうとうリングの上に立っても彼女が我を取り戻したようには思えなかった。


『さぁさぁさぁ皆さまご注目!突如として現れた幼き期待の新星、A選手です──っておや?今日はちょっぴり眠たそうですね!』


観客を盛り上げるため、過剰に声を張り上げるアナウンサーにすら見抜かれている。
あからさまな覇気のなさは当然対戦相手にも伝わっており、侮られていると勘違いしたのか眉を釣り上げて威圧的に拳を鳴らした。

試合形式は変わらず三分三ラウンドのP&KO制。開始の合図が下され、さて始まる──と思いきや、


「あなたは、何のために戦ってるの?」


対戦相手の男が振りかぶった拳を真正面から見据えたまま、Aは問いかけた。あまりにも純粋な瞳に見つめられ暴力行為は憚られたとみえて、男は体を強張らせる。


「二分だけお話ししてほしいの。あなたがどうして戦おうとするのか聞きたいだけだから」

「……はぁ?」


訝しげな声。妥当な反応だ。ここは天空闘技場、武を修めた者がひたすらにしのぎを削る決闘の場。
言うに事欠いてなぜ、ここで問答をせんとするのか。イルミの他に理解できた者は誰一人とていなかった。

ネテロの言葉を、彼女はうまく自分の認識と落とし込むことができなかった。故に額面通りに受け取り、分からないのなら聞いてみようという優等生然とした考えに行き着いたのだ。
彼女はまだ子どもだ。いかに特殊な思想を持ち合わせていようと、その根幹にあるのは無邪気さに他ならない。
元より難しくあれこれと考えるのが苦手なたちであるから、聞いた方が早いと判断したのだろう。

この方法はシルバのものにも近い。「様々な流派を学び最も自分に適したスタイルを獲得する」のは、戦闘にもこちらにも当てはまる。
Aはそこまで意識していないだろうが、奇しくもシルバの思惑通りとなった。彼女は今、確かに人との接し方を学ぼうとしている。

──勿論、相手が応えてくれたのならの話だが。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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