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ネテロに言われたことをゆっくりとAが咀嚼している間、二人は何も言わずに待っていた。
これは彼女自身が自らの力で呑み込まなければならない不変の事実だ。誰かの教えをそのまま受け取るではなく、自分で考えて納得する必要がある。


「他人のことまでちゃんと考えないと、強くなれないってこと?」


結局彼女が聞きたいのはそこだ。強くなれるかどうか。
彼女にしてみれば、ネテロの説く価値観が欲しいものに繋がるとは思えなかった。


「それも千差万別じゃ。孤高を原動力にする者もいれば、仲間を力にする者もおる。お主は『家族のため』じゃな」

「それだけじゃだめなの?」

「駄目とは言えん。が、どこかでつまずく。相手が何を思い、何を強さとするか。分からぬままでは少しつらい」

「つらい……」

「そう、つらい。理解しろとは言わん。知っておくだけでも随分と違う。得体の知れない信念をもった敵ほど戦いにくいものもないぞい」


Aはこれまで、ほとんど抵抗のない標的を殺すことしかしてこなかった。
単調な作業にも等しい殺人。命乞いを聞く暇も与えぬ迅速な殺害。
命の危機に瀕した人間が何を思うか、彼女にとっては微塵も興味がなく、また知る必要もない事柄であった。

だが、それが通用するのは弱者を相手にした場合に限る。
実力が拮抗した、あるいは上の人間と戦う場合、否が応でも相手の強さの根元に大なり小なり触れる。その理由は様々だ。
しかしそれに対して無知であったのなら、相手は途端に「得体の知れない」とか「訳の分からない」という修飾がついた難敵へと変貌する。

未知のものに感じる恐怖や準ずる感情は動きを鈍らせ、ともすれば致命的な隙を作り出す。

ネテロが言った通り、完全な理解や同調は必要ない。
ただ相手も同じ人間で、何かしらの信念を抱いたれっきとした個人であることを自覚しなければならない。
Aはこの意識に欠けていた。家族以外を等しく路傍の小石と同じ目で見ることができてしまうAは、人間の意志の力を未だ知らずにいた。

家族への盲目なまでの信頼や愛情が、それに拍車をかけている。
イルミはAほど“家族”へ妄執していなかったために、こうも拗れずに済んだ。


「人はみな生きておる。お主もまた、生きておる。
そういうことじゃ、結局はの」


記念にやろう、とゴムボールをじっと観戦していたイルミに託し、ネテロは軽い足取りでリングを去った。
後には姉弟だけが残された。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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