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言っていることはごくごく平凡な、才能を持たない指導者がそれっぽいことを言ってごまかしているのと大差ない内容である。
だがそれを口にしているのは、現役ハンターにして狩人達のトップに君臨する地上最強の男。
「何を分かりきったことを」と一笑に付すには、あまりに重みが違う。
しかし、今にもふっくらとした頬に涙の筋を作りそうなAは、ネテロの進言に何一つ反応を示さなかった。
ぺたんと座り込んだままじっと床を睨みつけている。思えば、彼女が家族以外に確固たる敗北を与えられたのはこれが初めてであった。
「ネテロさんは、どうやって強くなったの」
嗚咽を押し殺したわななく声が、観客のいない闘技場を静かに巡った。
先に述べたような一般論を求めているのではない。ネテロは、この常軌を逸した強さを持つ一個人はどのような手段でもって鍛えたのか。それを問うている。
「そりゃあ、長い歳月をかけたものよ。山にこもって、気の遠くなるほどの修行を……」
「そうじゃない!」
幼い子どもの熱意に満ちた問いかけに、ネテロはそれまで人に話すこともなかった具体的な方法を答えようとした。
するとどうであろう、激しい叱咤の声が高い天井にまで響き渡ったではないか。
はぐらかそうとしている訳でもないのに、彼女が求めている答えは違うと叫ぶ。
「ネテロさんが!何のために!何を思って強くなろうとしたのか聞いてるの!」
ほぼ四六時中行動を共にするイルミでさえ聞いたこともない絶叫の後、Aはとうとう泣き出してしまった。
感情を処理しきれていないことは明白だった。心身ともに幼い彼女は甘やかされていた分精神は特に未熟で、自身の抱える思いを把握できていないのだろう。
家族の他に大切にすべき人間などいない。他者に持つ興味などない。だがネテロは違う。
Aなどでは到底届きもしない強さを持っていて、それは恐らく今のままでは手に入らないものであると、Aは無意識に理解していた。
ただ肉体を鍛錬するだけでは足りない。内に秘められた精神にこそ、強者たらしめる秘訣がある。
その正体を知りたい。知るためにはネテロという人間を知らなければならない。家族でも何でもない赤の他人である、彼のことを。
いわば家族至上主義とも呼ぶべき彼女の信念は、間違いなく悪い方向に作用していた。
ひどい視野狭窄。他人に対する圧倒的な無関心と、家族を守るに足る強さを手に入れたい欲求がせめぎ合う。その結果が慟哭であった。
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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時