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「待て、ガキ共!止まれ!」

「ねーイルくん、やっぱり……」

「だめ。我慢して」

「んむー」


多くのロビーや廊下を駆け抜けてなお男は諦めなかった。
どこかに追い詰めようという策略すらないがむしゃらな追跡に辟易したAは、しきりに男を排除したがっている。
試合外で殺せばこちらが罪に問われる可能性があるのでイルミが止めているものの、表情から察するに我慢もそろそろ限界だ。

もう警備員の一人や二人駆けつけてもいい頃合いだが、遠巻きに眺める観客や我関せずを貫き通す闘士がいるばかりで、追われる子ども二人を助けんとする者は一人としていない。
明らかな面倒ごとであるし、まあそんなものかとイルミはため息をついた。


「イルくん、こっち」


それまで適当にあちこち逃げ回っていたAが、不意に行き先を明示した。「どうして?」と聞くと「何となく!」と言う。
姉の勘がいいと思ったことはないが、何かしら思うところがあるのだろう。どうしたものかと考えていたので、イルミは素直に従った。

彼女が選んだ道は人気がなく、スタッフオンリーのプレートが取り付けられた扉が並んでいる。
一体何を求めてこの道を選んだのだろう。しかし姉が足を止めないので並走していたら、前方に人影を見つけた。

高下駄を履いた白髪頭の老人だ。ジャポンの民族衣装に似た衣服をまとい、からころと呑気に散歩をしているらしい。
一見助けになるとは思えない老人の背中に、Aは子ども特有の無邪気さをもってぴょんと抱きついた。


「おじいさん!あの人、どうにかして下さい!」

「ぬお。何じゃ、お主ら。何があったのかな?」

「逆恨みされた。姉さんが」


いきなり飛びついたにも関わらず難なくAを背中で受け止めた老人は、イルミの端的な説明を聞き、追って来た男の姿を見て「なるほどのう」と長いひげをさすった。


「ま、細かい事情は起きたら聞けばいいじゃろ。リングでもないところで暴れられたら敵わんわい」


「どけジジィ!」と怒鳴りつける男を一瞥した老人がそこから動いたようには見えなかった。
だが男は老人の数メートル手前でぴたりと止まり、それまでの暴虐っぷりが嘘のように呆気なく床に倒れ込んだ。ぴくりとも動かない。


「うむ、結構。それじゃあお主達、話を聞かせてもらおうか。何、ちょっとした世間話と思ってくれてよいぞ」


一瞬のうちに男の意識を刈り取った老人は、その強さを微塵も思わせない温厚な笑みを浮かべた。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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