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イルミはVTRでAの試合を見ていたから、この男の顔はすぐに思い出した。
リングの上では敵わなかったから場外でいちゃもんをつけようというのだろう。その行為が自らを更に弱者たらしめているとも知らずに。


「昨日はよくもやってくれたなぁ?表に出ろよ、今度は試合なんざ関係ねえ……」

「あの、すみませんが、どちら様ですか?」


一触即発の張り詰めた空気が、一瞬にして腑抜けた。
ぼきぼきと拳を鳴らしていた男がぽかんと口を開けている。まさか覚えられていないとは思ってもみなかったようで、彼女の言葉の意味が飲み込めていない様子である。

とはいえ彼だけでなく、イルミにとっても予想外のことであった。
しかしよく考えたらある程度は得心がいく。既に片づけ終わったゴミのことをわざわざ記憶に留めておく必要はないのだから、彼女が男を覚えていなくとも不思議ではない。
昨日、闘技場を訪れて初日で文句をこぼしていたAのことだ。むしろ覚えている方が難しい。

一応納得できたとはいえ、同時に新たな問題点を発掘してしまい、イルミは頭を抱えたい気分であった。
例えその場では親しく振る舞うことができようと、日を変えて再度会った際に「覚えていません」では逆鱗を逆なでしてしまう。
これは人付き合いにおいて大きな痛手だ。他人に興味がないとこうも煽るのが上手くなるのかと、ある種の感心すら抱いた。


「わたし、あなたと会ったことありましたっけ?ごめんなさい、ちょっと覚えてないです。多分人違いです」


本人に煽ろうとする意識がないのが、なおたちが悪い。
心底怪訝そうな軽蔑を含んだ一対の瞳に見上げられ、いくばくか怖気付いたブーディはされどプライドの高さから退くことをせず、店内ということを忘れ激昂して襲いかかった。

テーブルが倒れ、氷が残っていたグラスが床にぶつかり水を撒き散らしながら割れる。二人は余裕を持って回避し、応戦しようとするAをイルミが店外に連れ出した。


「イルくん、なんで逃げるの?殺す気で来たよ、あの人」

「今は試合じゃないから、喧嘩したらオレ達にも責任が問われるかも知れないよ。面倒でしょ。警備員が来るまで逃げよう」

「むぅ……そういうもの?」

「そういうもの」

「そっか」


いつの間にか手に握っていたフォークを投げ捨てざま後ろを振り返ると、すっかり我を失った男が手当たり次第にものを壊しながら迫って来る。
逃げ切るのは容易いが、果たして誰か助けてくれるだろうか。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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