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少なからず、相手がろくな研鑽を積んでいなかった素人同然の人間だったことも考慮に入れなければならない。
三十階ロビーで退屈そうに足を揺らしていたAの表情を見て、イルミは自分に言い聞かせた。


「イルくん、わたしもうここやだ。つまんない。
もっと上に行ったら、強い人もいるのかも知れないけど、お父さんが言ってた他人との接し方ってなあに?そんなの、ここで分かることなの?」


イルミはコーヒーを、Aはいちごみるくを手に、ロビーのソファに並んで座る。

三度の試合を経て、彼女の他人に対する認識は悪化している傾向さえあった。
シルバの想定では、Aは自分よりも強い人間に触れてヒトを人として認識する手はずだった。
けれどもここまでの三人はいずれもAより弱く、とるに足らない人間と立証されてしまっている。

このままでは悪癖は治らない。
「殺さなくてもいい他人」であれば普通の会話はできるから、それでいいとシルバは判断するかも知れない。
だがイルミはそれではいけないと強く思う。
彼女は人を尊重していない。その深層心理はふとした瞬間に露呈して、人間関係に致命的な亀裂を入れるだろう。

有り体に言えば、空気が読めない。
その人の嫌がることだろうが思い出したくない記憶だろうが気になったのなら聞くとか、そういう事態が多発してしまう。

他人にも人生があって、それらは須らく重みを持ったものであることをAは理解せねばならないのだ。
そして、その意識を暗殺と日常で切り替える必要もある。イルミはこの段階がまだ未熟だ。


「きっと分かるよ。でもあんまり考えすぎると戦闘の方に支障が出るから、今は勝つことに専念しよう。数をこなせば見えてくるものもあるよ、多分」

「きっととか多分とか、そんなのばっかり!あーあ、お母さんのクッキー食べたいなぁ……」


飲み干した空き缶を傍らのゴミ箱に突っ込み、Aは大きく伸びをした。
受付嬢曰く、今日のうちの試合はもうなく、明日の午後から組み合わせが始まるとのことであった。
現在時刻は夕方五時。そろそろ適当な宿を見繕わねば、固いソファか草むらで世を明かすことになる。

闘技場周辺の街中から安宿を探そうと思っていたが、先ほど二十階まで乗せてくれたエレベーターガールに聞いたところ、闘技場内に宿泊施設があるらしい。
しかも闘士は割引になるそうで、二人は迷わずそこを選択した。二人で一部屋。初めての外泊だった。

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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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