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巨大な手がAの頭を射抜く──かと思われたが、ブーディの腕は何もない空間を空ぶって体勢を崩しただけに終わった。
一瞬のうちに背後に回り込んでいたAは、優位を取ったというのに攻撃せずに悠然と口を開いた。
「今の、本気?」
まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。目を瞬かせていたブーディが、彼女のため息混じりの台詞に鼻の穴を膨らませた。
彼から見れば、この台詞は煽りでしかないのだが、本人は一応確認のつもりで聞いている。
振り向きざまにまたパンチを繰り出すが当たることはなく、どころか真っ直ぐに伸びた腕にAが飛び乗った。
膝をたたんで、頰を小さな手で包んでいる。その目には明らかな失望の色があり、怒りを上回る恐怖がブーディの背筋を走り抜けた。
「わたし、ここに戦い方を勉強しに来たの。弱いものいじめをしに来たんじゃないんだよ。ちゃんとやって」
子どもとは思えない冷めた声。決して人に向けてはいけない目が、されどひたむきにブーディを見つめている。
その瞬間に限り、ブーディは己が人間であることを忘れていた。道端に転がる石ころを見る目と、Aがブーディを見る目が、全く同じであったから。
「うっ、おおおお!!」
「うるさーい」
がむしゃらに拳を突き出す。また空ぶる。
的が小さいから当たりにくいとか、その程度のことであればよかった。この少女は自分の攻撃を完全に見切っている。
一体どのような生活をすればここまでの視力が育まれるというのか、生まれ持った体格にものを言わせ続けたブーディには想像もつかなかった。
当たれば大ダメージを与える攻撃でも、当たらなければ意味がない。この広いリングですばしっこい少女に一撃を喰らわせるのは困難極まる。
すとん、と軽やかに石板に降り立ったAは、愛らしく小首を傾げて「うるさいねえ」と屈託した声をもらした。
「遅いし、うるさいし、暑いし……お喋りする意味、あるかなぁ?ないかな?ないよね?ないと思う人ー、はーい。多数決きーまりっ」
時間を無駄にしてしまった。そう言いたげな怠そうな仕草で一人芝居を終えたAの動きを、ブーディは捉えることができなかった。
顎に強い衝撃が走った。視界がぐにゃぐにゃと歪み、平衡感覚が失われて立っていられなくなる。
審判がクリーンヒットとダウンを告げる声が遠くで聞こえ、それを最後にブーディの意識は途切れた。
試合開始からおよそ二分後のことであった。
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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時