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「お疲れ、イルくん」
イルミの姿を認めるなり小走りで寄ってきたAが転ぶ前に手を取り、煩わしい視線を振り切るように足早にエレベーターホールへと向かった。
子ども二人が手を繋いで歩く微笑ましい光景に、エレベーターガールの頰が思わず緩む。
いつもはガラの悪い男ばかりを相手にしているから、可愛らしい子どもと接する機会に飢えているのだろう。
前を行くイルミの前にしゃがみこみ、甘ったるい声で「どうしたの?」と聞いた。
「迷子になっちゃったのかな?」
「ううん、闘士として参加してる。二十階に行きたいんだけど」
「えっ?……あら、本当。ごめんなさいね、こんなに小さな子って初めて見たから」
チケットを見せると、女性は驚いた顔をして慌ててエレベーターを稼働させた。ざっと見渡した限りでは若くても十代後半であるから、迷子と勘違いするのも無理はない。
どうやら敗退したらしい男が何人か降りて行くのをやり過ごし、三人で狭い庫内に乗り込む。
「闘技場のルールは知ってる?一応、案内はあちこちに置いてあるんだけど」
「ちゃんと読んだよ!」
「そう、偉いわね。今何歳なの?」
「わたしが六歳で、イルくんが五歳」
「怪我をしないように気をつけてね。基本的に、ここで負った傷病について私達は責任を持たないから」
「はーい」
いつまでもイルミに先導されるばかりではいけないと思ったのか、手は繋いだままにAがずいと前に出た。
こうして会話しているのを見る分には、一見して特に不自然なところはない。
変に人とは何かを言い聞かせるよりも、いっそ表向きの顔を偽る術を磨いた方がいいのではないだろうか。
「はい、着いたわよ。頑張ってね、二人とも」
「うん!イルくん、行こ」
チンと軽やかな電子音が鳴り、かかっていた負荷が消えた。二十階フロアも十階とさして変わりはなく、多少闘士のレベルが上がったくらいだ。
案内板に従って受け付けを見つけ出し、背伸びをしてチケットを差し出す。
「お願いします」
「いらっしゃいませ。A様、イルミ様ですね。少々お待ち下さい」
闘士に直接関わる職員同士は連絡が行き届いているらしく、何か面倒な質問もなくファイトマネーを受け取った。
イルミは十階で勝ったので一万ジェニーだが、Aはまだ一階でしか戦っていないので、封筒の中には小銭が何枚か入っているだけだった。
その小銭はイルミの飲み物に当てられた。奢られたままなのは姉として嫌だという。
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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時