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ページ18

得体の知れない不安とは裏腹にAの態度は常日頃と変わりなく、それが少しイルミを安心させた。
まだ大丈夫。まだ取り返しがつく。彼女を一人、誰にも助け出すことのできない海原に放り出さずに済む。


「イルくん?どうかした……?」


深慮するイルミをAが覗き込んだ。肩口まで伸びた金色の髪が絡まることなくさらさらと落ち、糖蜜色の澄んだ瞳が、髪も目も真っ黒な姿を映した。
黙り込んでいた弟を見る表情は不安そうで、眉が八の字にしょんぼりと下がっている。

そうだ。今この建物において、彼女を人間たらしめるのはイルミしかいないのだ。

それを自覚し、イルミは決断した。彼女を守り、それを完遂できる強さを得ようと。
血が繋がっていようがいまいが、唯一の姉を決して化け物に変貌させたりはしない。
どんな結末を迎えようと、必ずAの隣に寄り添えるような男になろう。そう、心に誓った。

──この時、「弟」でなく「男」と形容したのは、あるいはイルミの内に芽生えた愛情が、本来家族に抱くべきものではなかったからなのかも知れない。
その正体が判然とするのは、これよりも何年も先のことである。


「何でもないよ、姉さん。大丈夫。……それより、早く次の試合に行こう。お金がないから野宿する羽目になるよ」

「野宿はやだ!……でも、イルくんは十階で、わたしは二十階でしょ?離れるのもやだな……」

「じゃあ、オレの試合が終わるのを待っててよ。それから一緒に二十階で戦おう」

「そうするー」


天空闘技場では、二百階までは十階単位でクラス分けされている。十階で一勝したら二十階、という具合に進むから、試合の回数を絞れば二人が常に同じ階層にいるよう調整もできる。
様々な意味で、Aから離れるのは得策ではない。イルミにとってもこのわがままは都合がよかった。



初戦で負けるような無様は晒さず、イルミは無事二十階への通行権を獲得した。この調子なら今晩の宿代は簡単に稼ぐことができるだろう。

ロビーで待っていたAの周りには不自然に空間ができている。どうやら一階での戦いが噂になっているようだ。

ひそひそと聞こえてくる囁きの中には、好奇心混じりのものもあれば、子どもなのにと疑う声もあり、少なからず警戒する声も含まれている。
野蛮人が集まる場所なだけあって、場外にも危険が満ちているらしい。Aを指差している男達の横をあえて横切り、イルミはAと合流した。



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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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